6年「放置」のフォルクスワーゲン・ビートル 60psの1302 Sを復活 記憶と違う絶好調

公開 : 2024.02.21 19:05

過去の記憶とは相容れない好調

そんなある日、英国のフォルクスワーゲンから連絡をいただいた。「創業70周年を祝う式典を計画しています。あなたのビートルを展示してみませんか」。なんと素晴らしい申し出なのだろう。

しかし、正直にお伝えした。「2017年以来、動かしていないんです」

フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)

展示の取り消しを覚悟したが、筆者が部品を用意するという条件で、専門の技術者が整備してくれるという。願ったり叶ったりとは、まさにこのことだ。

手配する部品を確かめてもらうと、かなりの数に登ることがわかった。燃料ホースと電気ケーブル、オイルやフルードなどは当然ながら、新しいステアリングラックも必要だと判明。運転席側のショックアブソーバーも駄目になっていた。

プッシュロッド・シールからはオイルが漏れ、アンチロールバー・ブッシュはカチカチだった。バッテリーも新調した。

タイヤも交換が必要だったが、ビートルの最適な仕様となると、ミシュラン・クラシックを選ぶことになる。これは、筆者がクルマの部品として購入した中では、2番目に高価なアイテムになった。

作業終了の連絡をいただき、整備工場へ向かう。「まったく問題ありません。1週間ほど走らせましたが、調子は良いですよ」。と、メカニックが笑顔で話してくれた。

キーを捻った瞬間に、フラット4は1発始動。元気なサウンドを響かせ、安定したリズムに落ち着く。正直なところ、過去の記憶とは相容れない。筆者が面倒を見ていた10年前は、どれだけ不調だったのだろう。

渋滞混じりの1時間のドライブを平然とこなす

筆者がAUTOCARで仕事を初めて以降、運転したことのある最も古いクルマは、ビートルを除けばアウディ・スポーツクワトロ。パワーアシストのない重ステと、滑らかに動かないシフトレバーの扱いを心配したが、200mも走ると身体の記憶が蘇ってくる。

ステアリングホイールは、切り始めの30度くらいが遊び。かなり予測的に腕を動かす必要がある。新しいミシュランは、しっかり路面を掴む。フロントノーズが軽いから、パワーステアリングは必要ない。

フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)

ブレーキもオーバーホールしていただいたが、現代のモデルと比べれば貧弱。30km/h以上でカーブを曲がると、笑ってしまうほどボディが外側へ傾く。

クラクションは、ボタンの特定の場所を押すまで鳴らない。ヒーターは、過去にケーブルを誤って切断していて、運転席側しか効かない。そんな事実も、改めて思い出す。

信号待ちでは、昔のようにアクセルペダルを軽くあおって、アイドリングを保つ必要はない。シフトダウンせずに、長い登り坂を70km/hで進める。舗装の剥がれた穴を通過しても、粗野な振動は伝わらない。しかも2車線の道路では、遅いクルマを追い越せる。

筆者の思い出の中にある、1302 Sではない。まるで新車のようだ。

ロンドンへ向かう、M1号線へ入る。スーパービートルは平然と、渋滞混じりの1時間のドライブをこなしてみせた。にわか雨に見舞われても、ワイパーとヘッドライトはしっかり機能。ウインドウシールから、雨水が染み込んでくる気配もなかった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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