こう見えて実は「パトカー」 MGA 1600 デイムラーSP250(1) 路上のわかりやすい抑止力

公開 : 2024.02.25 17:45

1950年代後半から英国で敷設の進んだ高速道路 スピード違反を取り締まったMGAとデイムラーSP250 英国編集部が2台のロードスターをご紹介

英国の交通取締りの歴史を語る生き証人

グレートブリテン島の南部、ウェストサセックス州に、アンバリーという自動車博物館がある。ここへ、少し変わったブリティッシュ・スポーツカーにお越しいただいた。

1台は、ロンドン警視庁に所属していた、1961年式デイムラーSP250。もう1台は、ランカシャー州警察が使用していた、1959年式MGA 1600 Mk1。それぞれ、ジョン・ドーセット氏とサイモン・ドワイヤー氏が大切にする、クラシック・ロードスターだ。

ホワイトのMGA 1600 MkIと、ブラックのデイムラーSP250
ホワイトのMGA 1600 MkIと、ブラックのデイムラーSP250

この2台は、英国における交通取締りの歴史を語る生き証人といえる。市街地の規制速度、時速30マイル(約48km/h)を超えて運転するようなヒルマン・ミンクスのドライバーも、厳しく監視したのだろう。

グレートブリテン島の中西部、ランカシャー州には、かつて英国最大規模の警察部隊が置かれていた。そこへMGAのパトカー仕様が配備されたのは、1955年11月。2シーターのロードスターを女性警官が駆るという組み合わせは、小さくない話題を集めた。

一定の技量試験に合格した警察官が、特徴的な白い制服と帽子で身を包み、真っ白に塗られたMGAのシートに座った。当時の英国のパトカーはブラックが定番で、異例のボディカラーでもあった。

ランカシャー州の巡査長、トーマス・エリック・セント・ジョンストン氏は、ホワイトの方が路上で目立つと考えたらしい。その後、パトロール隊は約50台のMGAを発注。592 KTBのナンバーで登録された今回の車両も、1959年7月8日に配備された。

英国初の高速道路の秩序維持が任務

シャシー番号は、GHN70453。1台あたり約17ポンドだった、オプションのヒーターは装備されず、税金の節約に努められた。そのかわり、隊員には毛布が与えられたそうだが、1962年や1963年の冬は寒さが厳しく、殆ど意味はなかったようだ。

パトカーならではの装備が、マイクと拡声器に、前後へ装備された「POLICE」の行灯、ツインアンテナの無線システム、イエーガー社製の正確なスピードメーターなど。標準仕様だったスミス社製のメーターは、表示が若干怪しかった。

MGA 1600 MkI(1955〜1960年/英国仕様)
MGA 1600 MkI(1955〜1960年/英国仕様)

補機バッテリーが2基積まれ、追加された装備に対応。荷室には、無線機のほかに白いコート、ランタン、発煙筒、救急箱、消化器が積まれた。後方車両へ「事故」だと知らせる、警告看板も。

これらの装備はかさばり、リアのバルクヘッドをくり抜いて荷室が拡大されていた。それでも足りず、スペアタイヤが降ろされた。今回のMGAの場合、導入後期の特徴として、フロントフェンダー上にマーカーランプが追加されている。

オーナーのサイモンは、パトカーとしての経歴も調査。ランカシャー州を南北に貫く、プレストン・バイパスと呼ばれた英国初の高速道路での秩序維持が、主な任務だったと考えられる。追加されたツイントーンのホーンと大きなベルが、その理由だという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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