アウディ・プロローグ・コンセプト
公開 : 2014.11.27 23:50 更新 : 2017.05.29 18:15
4輪操舵機構もついており、後輪は最大で5°まで角度を変えるとのこと。市街地などの曲がり角が多いシチュエーションはもちろんのこと、空いた道での敏捷性も飛躍的に高まるのだそうだ。
現時点ではスタイリングを優先させ、極限まで車高が下げられているため、ホイールの上下方向の動きは制限されている。これに拍車をかけるかのように22インチ・ホイールには285/30のピレリPゼロが組み合わされているため、乗らずとも、ある程度の乗り心地は想像できるはずだ。
野次馬たちの熱い視線を背に、ポンポンと上下に跳ねながらロデオ・ドライブをあとにした。
一方のステアリングに関しては褒めるべき点が多い。実にハツラツとしており、正確性も高いのだ。ほかの電制装置と同じく、プロローグのエレクトリック・ステアリングは現行のS8から借り受けており、後輪操舵システムと呼応して大型クーペとしては異例の最小回転直径(8.5m)を実現している。A3のそれよりも小さいといえば、どれくらいすごいかがお分かりいただけるだろうか。
プロローグはコンセプトカーと言えども、その範疇を軽く飛び越える運動性能をもつ。速度こそ制限されているものの、操舵には遊びがなく、自らが曲がりたがっているかのように向きを変える。コーナリング時に不意に不安定になることもなく、常に冷静であるさまは、他のプロダクションカーに匹敵する出来栄えと言っていいだろう。
さらに速度を増していけば、安定性はより高くなり、ここからはプロローグの真のキャラクターがきらびやかに浮き上がってくることになる。
60km/h前後の速度域では ’快適’ と形容できる安定方向のマナーに徹することで、低速時に感じていたサスペンションの瑕疵が見事になくなる。
ここからさらにガスペダルを踏み込めば、コンセプトカーによくあるデリケートさが消失し、パフォーマンスカーとしてのある種の野蛮さが顔を見せるはじめる。
当初感じていた、鈍いスロットル・レスポンスも過去のものになり、V8が雄叫びた時には、メルセデス・ベンツSクラス・クーペの立場を危うくするほどの振る舞いへと変わる。
アウディいわく、製品化される際には車重は1980kg程度になり、0-100km/hタイムは3.7秒になるのだそうだ。車重から想像するに、加速マナーは恐ろしいほどに獰猛であることは間違いない。
ギアボックスの変速マナーも、この時点ですでに舌を巻くレベル。ZFに由来するユニットは高いギアまで滑らかにかつ淡々と歩を進め、アクセルを踏み込めば即座に適切なギアまで落としてくれる。ブレーキはほかのアウディのモデルがそうであるようにオーバー-サーボな印象は否めないし、やや感じやすくも感じるものの、制限速度域のあいだでは十分に扱いやすいものだった。
先導してくれた警察車両がサイレンを鳴らし、前方のクルマに避けてもらったうえで思い切りアクセルを踏み込めば、けたたましいエグゾースト・ノートとともに、それはもう気持ちいいことこのうえない加速体験をさせてもらった。
とはいっても、プロローグの本来の立ち位置は、ロード-ゴーイング・プロトタイプではなく、スタイリングを提示するためのワンオフのコンセプトカーである。事実、この記事の写真に写っている車両ができあがったのも、この取材のたった5日前のことなのだそうだ。
しかしアウディは、実際にショールームに並ぶまでにさほど長く待つ必要はないと言う。少なくとも既存の問題が解決し、開発の着手にゴーサインが出るのは、すぐ先の話なのだそうだ。
しかしA9はさらに実用的な5ドア・ハッチバックのレイアウトを採用する予定であることから、ピラーレス2ドア・クーペの製品版は別の機会でのお目見えのようだ。
何はともあれ、プロローグを間近で眺め、実際に運転した筆者は、このモデルが数々の賞を総なめにすることを、強く確信している。
(グレッグ・ケーブル)