たった1台の「ベルトーネ」スパイダー アルファ・ロメオ・ジュリエッタ(1) 美貌は大胆コンセプト譲り
公開 : 2024.03.10 17:45
デザイナーのフランコ・スカリオーネ氏が手掛けた、アルファのスパイダー ピニンファリーナの影に消えた美貌 1台限りのプロトタイプを英国編集部がご紹介
惹き込まれる大胆なラインのフォルム
ワンオフのプロトタイプは、いつの時代も魅力的な存在だ。秘密の空間といえるデザインスタジオで、これまでにないユニークな作品が生み出される。量産モデルとは異なる、神秘性を備えるものが多い。
今回ご紹介する小さなスパイダーも、例外ではない。イタリアの職人技で成形されたアルミニウム製ボディは、優雅なプロポーションでありながら、主張も強い。
ドアの上端には、脱着式サイドウインドウを固定する繊細な金具が備わる。クロームメッキされたトランクリッドの開閉ボタンは、ボディと同色のカバーで隠される。観察するほど、細部まで入念にデザインされているのがわかる。
ベージュとレッドのインテリアは、特に個性的な造形ではないものの、美しい。金属製のダッシュボードはボディと同じレッドに塗られ、ブラックのメーターパネルと、3スポーク・ステアリングホイールとのマッチングも好ましい。
一歩下がって全体を眺めれば、大胆なラインで構成されるフォルムへ惹き込まれる。逆三角形のフロントグリルには、手の込んだ細工が施され、アルファ・ロメオであることを誇らしげに顕示する。
そのフロントグリルから流れるように、ドラマチックなボンネットが続く。イタリアのカーデザイナー、フランコ・スカリオーネ氏の作品であることは間違いない。
大胆なBATシリーズの香りが漂う
このアルファ・ロメオ・ジュリエッタ・ベルトーネ・スパイダーの製作は、1955年。1954年のスポルティーバ 2000へ通じる、強く弧を描いたボンネットや、フロントとリアのバンパーを結ぶサイドのクロームメッキ・トリムなどが、目立つ特徴だろう。
1953年から1955年にかけて、カロッツエリアのベルトーネ社によって製作された複数のコンセプトカー、BATシリーズの影響も明らかだ。特に、細く絞られたテールまわりには、同じ香りが漂う。
アルファ・ロメオは、1952年にベルトーネ社の代表、ヌッチョ・ベルトーネ氏へ、ベルリネッタ・エアロディナミカ・テクニカ(BAT)の提案を依頼。空力に秀でたデザインの研究を、在籍していたスカリオーネが担当した。
その結果、BAT 5、BAT 7、BAT 9という3台のコンセプトカーが導かれた。彼が腐心したのが、ボディ面から気流の分離を抑えること。1954年の走行テストでは、BAT5の高速域での安定性を、ジャーナリストのポール・フレール氏が確かめている。
1953年に発表されたBAT 5と1954年のBAT 7は非常に前衛的で、前後のタイヤをスパッツでカバー。滑らかなルーフは、後方へ向けて細くなるティアドロップ形状で、リアには内側へカーブした大きなテールフィンが与えられていた。
1955年のBAT 9は、市販モデルへ1歩近づいた、少し落ち着いた見た目に仕上がっていた。ボンネットのラインとカバーの付いたヘッドライト、エアインテークなどは、このベルトーネ・スパイダーのフロントマスクへ展開されている。