ロールス・ロイス・スペクター 詳細データテスト 品格ある走り 新時代ロールス 革新的EVではない
公開 : 2024.03.02 20:25 更新 : 2024.03.08 18:29
内装 ★★★★★★★★★★
ここ数年、このテストでは左右フロントドアをフルオープンした幅をドアスパンとして計測している。このクルマの数字は記録級だが、車体そのものの幅と、タイトな室内へのアクセスを考えれば理の当然だ。
このドアスパン、4mを超えることは滅多にない。4ドアなら現行ゴーストの4040mm、2ドアならベントレー・コンチネンタルGTCの現行モデル登場時の4180mmを目にしてから、しばらくこの記録を破るものは出ないだろうと思ったほどだ。
しかしスペクターは、まるで大きな海鳥が翼を拡げるように自動開閉ドアを開き、ついには4600mmもの幅を占有するのだ。後方へと開くいわゆるコーチドアで、メーカーによれば、現在世界で生産されているリアヒンジドアとしては最大だとか。強力なエアブレーキにもなりそうだ。試したくはないが。
素材はほぼアルミニウムでパワーアシスト付きのエフォートレスドアなので、自力で開け閉めすることはまずない。ポリッシュ仕上げのやたら大きいドアハンドルを引けば、あとは勝手に開く。クルマがようこそと迎えてくれるかのように。ドライバーが着座してブレーキを踏むと、ドアは閉まる。
スーパーカー的なGTと比べ、着座位置はやや高く、それほど寝かせた姿勢ではないが、これは利便性に配慮したものだ。前席は、美しくソフトなチェアにピッタリと収まるような感覚を得られる。後席は2座で、さすがにリムジンのようなスペースはないが、それでもよほど背が高くなければ大人でも過ごせる空間だ。
操縦系のレイアウトはおおむね、既存のアーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー採用モデルに共通するもの。ダッシュボードとセンターコンソールは、ファントムではなくゴーストとの共通性が多い。インフォテインメントディスプレイは隠せるタイプではないが、伝統的な見た目のデジタルメーターや、ロールスらしい質感とディテールで仕上げた数々の実体スイッチが備わっている。
ひとつだけ物申すならば。高価そうに見せる精密さがあと一歩足りないことか、ヘッドライトスイッチや、時代遅れ感のあるスライド式エアコン温度調整が気になった。
これはパワーソースの面で言えばニューエイジのロールスだが、室内に収まると、安心するくらい見慣れた雰囲気で、豪華絢爛さはエンジンモデルと変わらない。他社がデジタル統合一辺倒に走りすぎているなかにあって、ある程度抑えを利かせているロールスの傾向は、むしろ強みになるときはきっとくる。そして、じつにジェントルなアンビエントライトは、やはりほかには真似のできないものだ。