ゼロから? いいえマイナスからの復活劇 津波で水没したランチア・デルタは、どうよみがえったのか

公開 : 2024.03.07 11:45  更新 : 2024.03.07 13:30

わが身に重なるデルタ なんとしても復活を!

長い月日を経て完成が見えてきた2020年、デルタ復活のきっかけをもたらした後輩が急死。さらに好事魔多しというべきか、寺島社長の身に病魔が忍び寄る。

そこにCOVID-19の世界的な流行も発生。採算を度外視したレストアプロジェクトどころではなくなってしまった。またしても、デルタの行方は暗礁に乗り上げたのだった。

再始動前の状態。ここから現在までの変わりぶりは、ぜひフォトギャラリーを見てほしい。
再始動前の状態。ここから現在までの変わりぶりは、ぜひフォトギャラリーを見てほしい。    クイックトレーディング

時は経ち2023年。一時は生命の危機にさらされた寺島社長は、医師も予想できないほどの奇跡的な回復を遂げ、ふたたびショップの最前線にいた。そして同じく、奇跡的な回復を成し遂げさせたい存在が、もうひとつ。

そう、10年以上前に水没し、いちど復活を目指すも頓挫したデルタである。

もはや、仕事やビジネスではない。着手したプロジェクトを、亡くなった後輩のためにも完遂したいという熱意、何より、闘病生活で寺島社長の原動力となった前向きな、負けない気持ちの象徴として、プロジェクトを再始動する決断が下された。

現在、デルタは板橋区のクイックトレーディングの工場にある。冒頭で述べたとおり、エンジンへの「火入れ式」も執り行われ、2月中旬の取材当日には、内装も組み付けられたレストアの最終局面に差し掛かっていた。

寺島社長は「ことしの3月11日にデルタを被災地でお披露目し、被災当時の元オーナーとの対面を果たしたい。それまでに車検を取得し公道復帰させ、なんとか自走で現地入りしたい」と力強く語る。

その先には、このデルタで日本全国をめぐるキャラバン構想や、イタリア・トリノのミュージアム「ヘリテイジ・ハブ」への里帰りも視野に入れているそうだ。奇跡の復活を遂げた1人と1台が紡ぐストーリーから、今後も目が離せない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    香野早汰

    Hayata Kono

    1997年東京生まれ。母が仕事の往復で運転するクルマの助手席で幼少期のほとんどを過ごす。クルマ選びの決め手は速さや音よりも造形と乗り心地。それゆえ同世代の理解者に恵まれないのが悩み。2023年、クルマにまつわる仕事を探すも見つからず。思いもしない偶然が重なりAUTOCAR編集部に出会う。翌日に笹本編集長の面接。「明日から来なさい」「え!」。若さと積極性を武器に、日々勉強中。

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