欧州自動車産業を救う方法 ルノーCEOが提言 一貫性なき「規制」に警鐘、連携呼びかけ

公開 : 2024.03.06 06:25

ルノー・グループのCEOであり、欧州自動車工業会(ACEA)の会長も務めるルカ・デ・メオ氏が独占寄稿。弱体化した欧州の自動車産業を救うべく、安価な小型EVの普及と欧州全体での連携を呼びかけた。

米中の台頭 弱体化した欧州自動車産業

(この記事はルノー・グループCEO兼欧州自動車工業会会長のルカ・デ・メオ氏による寄稿文です。)

まずテスラの台頭を目の当たりにし、そして今、中国の台頭を目の当たりにしている。我々欧州の人々にとって、今は厳しい時代だ。しかし、我々は何が問題なのかをしっかり理解しているだろうか?

ルノー・グループCEO兼欧州自動車工業会会長のルカ・デ・メオ氏
ルノー・グループCEO兼欧州自動車工業会会長のルカ・デ・メオ氏

EU(欧州連合)では、GDPの8%、研究開発費の30%、1300万人の雇用を自動車産業が占める。自動車産業を切り捨てれば、英国を含む欧州は構造的な貿易赤字に陥るだろう。

今日、自動車産業は過去150年間で最も大きな変化に直面している。環境負荷の低減、2035年までの内燃機関の段階的廃止、そして安全性とサイバーセキュリティに対する要求の高まりによって、自動車はより重く、より高価になっている。これらすべての制約が積み重なっている。

制約の積み重ねが、時には予期せぬ結果をもたらすこともある。平均的な欧州車は20年前に比べて60%重くなり、価格は50%上昇し、国によっては自動車メーカーの雇用者数が最大40%も減少している。

もちろん、新型車は環境に優しいが、これには別の側面もある。残念なことに、高い価格設定が人々の購買意欲を低下させている。欧州の自動車保有台数の平均使用年数は7年から12年に上昇しており、古くて汚染度の高い自動車を長く使い続けているのが現実だ。

欧州の優位性・確実性が揺らいでいる

さらに、自動車メーカーは100年以上にわたり、内燃機関を中心とするゲームを続けてきた。いまや我々は、EV(電気自動車)、ソフトウェア、モビリティ・サービス、循環経済といった、まったく異なる要件を持ついくつもの分野で腕を磨かなければならない。

新しい素材、新しいプレーヤー、原材料の抽出からバッテリーのリサイクルに至るまで、まったく新しい世界を理解するための新しいバリューチェーンが必要だ。

ルノーが販売する新型EV、セニックEテック
ルノーが販売する新型EV、セニックEテック

この新しく、拡張され、細分化された競争分野は、前例のないボラティリティ(変動率、不安定さ)にも特徴づけられる。内燃機関の場合、我々が扱う技術は成熟しており、技術革新は漸進的なものだった。バッテリーはまったく違う。ギガファクトリーへの10億ユーロの投資も、新しい化学物質が発見されれば一夜にして疑問視される可能性がある。

原料価格も不安定だ。例えば、リチウムの価格はわずか3年の間に12倍になったり2倍になったりした。果てには、排ガス規制のユーロ7に関する近年の議論(そしてその後の規制変更)が示すように、我々が取り組んでいる規制も不安定である。

自動車業界にとって、規模と効率が古くからのマントラだった。そして今、イノベーションと戦略的俊敏性という新たな命題が浮上している。これこそ、自動車メーカーがすべての行動の中核に置かなければならないものなのだ。

冒頭で述べた情勢の変化は、欧州の確実性をも揺るがしている。内燃機関では、我々のリーダーシップに議論の余地はなかった。100年にわたり、我々はこの技術に関する専門知識から恩恵を受けてきたが、同時に業界への新規参入の障壁となっていた。

今日、欧州は相対的に脆弱な立場に置かれている。中国は世界のバッテリー生産の75%、リチウム精製の90%を支配している。

加えて、米国が産業を大いに刺激・奨励し、中国が計画的に産業を組織化する一方で、我々欧州はしばしば首尾一貫性を欠き、自身の課題を全体的に見ることなく規制している。

記事に関わった人々

  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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