【潮流と官能性の行方】 マセラティ・グラントゥーリズモ・トロフェオ 内燃機のトップモデル
公開 : 2024.03.08 17:45
日本上陸を果たしたマセラティの新型グラントゥーリズモ。その内燃機関版トップモデルであるトロフェオに試乗します。同ブランドの主役はGTにこそありと断言できる「その名に偽りなしの快速プレミアムツアラー」です。
SUV台頭、でもブランドの主役はGTにあり
2007年~2019年という長きにわたって作り続けられたマセラティ・グラントゥーリズモ。その新型が昨年、本邦上陸を果たし、今回ようやくその実車に触れることができた。
グレードはマセラティ謹製のV6ターボ “ネットゥーノ”の550ps版を搭載した最強モデル、トロフェオである。と言ってもその外観からは最強モデルらしいパフォーマンスを強調するような雰囲気は感じられない。マセラティらしいブルーノービレ(濃紺)のボディが実にジェントルな雰囲気を湛えているのだ。
2ドア・クーペとしてはフルサイズといっていい大型のボディはまさにグラントゥーリズモ=壮大な旅に出るクルマといった印象。この特徴は先代でも全く同じだったし、さらに遡ればグランスポーツやマセラティ・クーペ、3200GTといった一族にも共通する。
もちろんそれ以前もカムシンやギブリ、セブリング、ミストラル、5000GT等々、豪奢な2シーター・クーペはマセラティの歴史の中で最も長く続いているブランドの主役なのである。
新型グラントゥーリズモのトピックは、ネットゥーノの搭載も含めた「これまでにない幅の広さ」にある。幅と言ってもそれは車幅ではなくカバレッジのこと。トロフェオに代表される伝統的なハイパワーICEモデルはマセラティの伝統に根差したひとつの頂点だが、今回は同じプラットフォームによってBEVモデルのフォルゴーレも用意されるのだ。
ラグジュアリーな伝統、デジタルとの共棲
第一印象は4ドアセダンもかくやというサイズ感。のびやかなフロントノーズの下にはマルチシリンダーエンジンの気配が濃厚に漂い、波打つようなボディラインはリアエンドで短く切り落とされている。典型的なフロントエンジンのクーペスタイルである。
ボディ全体の比率や雰囲気は先代に酷似しているが、それはポルシェ911のような伝統的なスポーツカーでは珍しいことではない。
外観で最も目新しさを感じさせてくれるのはフロントノーズで、楕円形のグリルが押し出されるように強調された攻撃的なデザインは近年のマセラティに共通するもの。
室内の仕立ての良さもまたマセラティ・ブランドの特徴といえる。上質な白いリアルレザーがふんだんに用いられたシートは形状こそスリムでスポーティだが、座ってみると見た目の印象よりもずいぶんと柔らかい。そんな伝統的な仕立てとデジタルの合わせ込みも上手い。
メーターパネルやナビモニター、その下のコントロール系もデジタルだが、ダッシュ中央に鎮座するマセラティを象徴するクロックもデジタルになっており、伝統と革新がほどよく絡み合っているのである。
ステアリング上のスターターボタンを押すと、ネットゥーノは思いのほか静かに吼え、アイドリングの振動も皆無に近かった。先代はMC(マセラティ・コルセ)のような過激なモデルも登場し、活発なイメージだった。だが新型はスポーツカーというよりもこの上なくジェントルな雰囲気でまとめられていたのである。