フェラーリ458スペチアーレ

公開 : 2014.07.26 14:54  更新 : 2021.10.11 09:06

605psというパワーはウラカンのそれとほぼ同水準のスペックだが、高速域でのパワーフィールがよりスパルタンに感じるのは458スペチアーレの方だ。いやウラカンの場合には、ミドのV10エンジンはその潜在的な能力をヴェールで包み込み、まずはジェントルな印象を伝えてきたのだが、458スペチアーレの場合には、ともかくスタートした瞬間から刺激的なサウンドと振動がドライバーにさらにアクセルを踏み込めとプレッシャーをかける。

組み合わされる7段のF1-DCTミッションは、最短のシフトアップ、ダウン時間が458イタリアに対してさらにそれぞれ20%、44%短縮されているというが、もはやこの領域に達するとその差というものを明確に感じることはできなくなる。フルスロットルでの加速では視線は前方を凝視するのみで、コンパクトなタコメーターの動きを確認するのは難しい。強烈な加速Gに耐えながらステアリングホイールのシフトインジケータの点灯をわずかに視界に捉え、シフトアップパドルを引き続けるほかはないのだ。

前で紹介したモバイル・エアロダイナミクス・ソリューションの効果は、日本の地ではその効果を体験することは難しいだろう。フェラーリによれば、フロントのアクティブデバイスは、車速が170km/hに達した段階で垂直ガイドベーンをオープンし、ラジエーターへのエアの流入量を増加させ、同時に空気抵抗を低減。さらに220km/hで今度は水平フラップがオープンして、路面とのクリアランスによってヴェンチュリートンネルを形成するアンダーボディに積極的にエアを導入する。リヤウイングやディフューザーも、それに連動してより大きなダウンフォースを得るためにアクティブ制御が入る仕組みなのだが、高速道路でも制限速度が100km/hに制限される日本では、その効果のほどはサーキットなどのステージで試すのが限られた方法になる。

一方オンロードでもその素晴らしい制御が味わえるのは、E-DiffやF-Tracといったデバイスの機能をより最適化し、フェラーリ自身の言葉を借りるのならば「絶対にスピンさせない」ための制御を行うSSC=サイドスリップ・アングル・コントロールを始めとするシャシーの機能だ。458スペチアーレのためにミシュランが専用開発したタイヤ、「パイロットスポーツ・カップ2」のスリップアングルを始め、ステアリングアングルやスロットルポジション、エンジンスピードなどをモニタリングし、コーナリング時に理想的なトラクションを与えてくれるこのシステムの動きは、今回の試乗で最も好印象が得られたものだ。

もちろんいかに先進的な電子制御デバイスを惜しみなく搭載していても、最終的にその優劣を決めるのは基本構造体たるアルミニウム製スペースフレームや、サスペンションそのものの性能であるのは当然の話である。その意味では、フェラーリが458イタリアで確立した基本性能はまだまだスーパースポーツの最高水準に位置するものと評することができるのだろう。

記事に関わった人々

  • 山崎元裕

    Motohiro Yamazaki

    1963年生まれ。青山学院大学卒。自動車雑誌編集部を経て、モータージャーナリストとして独立。「スーパーカー大王」の異名を持つ。フツーのモータージャーナリストとして試乗記事を多く自動車雑誌、自動車ウェブ媒体に寄稿する。特にスーパーカーに関する記事は得意。

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