山積するタスク 車載ソフトウェアの開発現場はどうしてる? 2枚のボードで「人中心」の品質革新
公開 : 2024.03.23 14:05
ハードよりもソフトウェアが新車の価値を左右する時代。車載システムの開発現場には、膨大なタスクとリスクを管理する2枚の表が存在しました。
マツコネ2を支えるソフトウェア開発
マツダCX-60に採用されている世代のマツダコネクトを「マツコネ2」と呼ぶ人がいる。
初代マツダコネクトと区別した新世代という意味だ。
マツコネ2用のCMUはパナソニック オートモーティブシステムズ社が開発を行った。
「CMU」とは、クルマの中のディスプレイ、スイッチ類、オーディオ機能、通信ユニット、USBハブ、スマホを結ぶインフォテインメント・システムを実現するもの。
コネクティビティ・マスター・ユニットの略でCMUだ。
こうしたソフトウェア全体の開発には膨大な工数を要するし、新型車に組み込むシステムだから品質・コスト・納期がとてもシビアな分野である。
求められる機能は年々増えていくばかり……。車載システムのメーカーはどのように仕事を進めているのだろう?
山積するタスクを開発陣がいかにマネジメントしているか教えてもらった。
「つながりボード」と名付けた狙い
「物をつくる前に人をつくる」と人材育成を重んじたのは松下幸之助。いまもパナソニック・グループでは、人を活かす仕組みをとりわけ重視している。
車載ソフトウェアの開発を担うパナソニック オートモーティブシステムズ社の場合、「つながりボード」という取り組みがその一例だ。
これは、優先順位を判断する基準、負荷の平準化、滞留タスクの見える化などを形にした1枚の表である。カンバンボード、WIPボードとして知られるもので、それをアレンジして使っている。
縦に担当者の名前が並んでいて、その左・右にタスクを1つずつ張り付けていく。
名前の左側が「着手可能なタスク」。右側が「実行中のタスク」「保留中のタスク」「完了したタスク」。
それぞれのタスクは緊急度合い・課題の大小で色分けされており、濃い色は注意するべきもの。
表の上部に、仕事の優先順位のつけ方を家訓のように掲げた。
表の欄外には「ミニお助けボード」という枠があり、チーム内に助けを求める場を設けている。
これを実践していくことで、次々に発生するタスクの優先度が整理され、個々人としては1つひとつを完了することに集中できる。
そして何より、組織としては進捗の共有・課題の早期把握・コミュニケーション不足の解消に役立つ。
タスク管理ボードと名付けずに「つながりボード」とした狙いはその辺りにあるのだろう。
「お助けボード」 もやもやを感謝に
もう1つは、従業員満足度を高める視点のもの。「お助けボード」と呼ばれている。
チーム毎に助けの声を集めた「ミニお助けボード」の全社版で、経営陣まで声が届くエスカレーションボードといったところだ。
こちらのボードも、縦に人の名前が並んでいる。
上から順に、社長、役員、ビジネスユニット長、各センター長、各リーダーと続き、それぞれの顔写真の横に「未着手」「お助け中」「完了」という枠を設けた。
未着手の枠に、お助けカード、グレーニュースというものを張り付けることから始まる。
グレーニュースとは同社が用いる言葉で、リスクが顕在化する前の事案、どちらに転ぶか分からない問題を言う。
これらを1枚のボードに集めることで、バッドニュースになる前のもやもやした気づきを、上位層も含めていち早く察知・対策していくという。
お助けボードの狙いは、「透明性と公平性の担保」「スピードある全員経営」「心理的安全性」「孤独の解消」の4つ。
貼ってくれたらまず感謝!という標語が、この取り組みを価値あるものにしている。