メルセデス・ベンツ C180アバンギャルド
公開 : 2014.08.26 16:37 更新 : 2017.05.13 12:51
半世紀ほど前、BMWとアルファ・ロメオによって、今で言うプレミアムDセグメントという商域が創り出された。それは車体サイズでは通常のDセグメントだけれど、エンジニアリング内容が凡百のセダンたちと比して格上で、それによって走りの質感もずっと高かった。1970年代に入ってアルファ・ロメオが排ガス対策の遅滞や清算問題で脱落して、BMWが3シリーズでその商圏を支配し、世界で多大な利益を上げて社は躍進することになる。それを黙って見ておれなかったのがメルセデス・ベンツである。EセグメントとLセグメントに君臨するこの世界最古の自動車メーカーは、突如として膨れ上がった3シリーズという目の上のタンコブを殲滅すべく、通常よりも長い期間に渡って入魂の開発を密かに進めて80年代の初めにW201系190を作りあげた。それはプレミアムDセグメントに投入する新商品であると同時に、あからさまにBMW3シリーズを狙い撃ちした必殺の刺客であった。
ご承知のようにW201系190は自動車史上に恐らく永遠に残るだろう傑作セダンだった。そして、この3シリーズ迎撃機はCクラスと名前を変えつつW202系、W203系、先代W204系と代を重ねて宿敵と、そして途中から参戦してきたアウディA4をも交えて、プレミアムDセグメント商圏で火花を散らしてきたのだが、では3シリーズを完全に打ち負かすことができたかと言えば、公正に見てそうとは言えなかった。走りのダイナミズムを前面に押し出すBMWに対して、Cクラスはドライバーの過誤に対してそれを鷹揚に飲み込む懐の大きさを基盤にするメルセデス特有のシャシー仕立てをされたがゆえ、非常に分かりやすい商品である3シリーズにアピール度で後れを常にとっていた。とりわけカンパニーカー制度がある欧州市場では、現役時代にEクラスを会社に与えられ、引退後に自費でCクラスを買うという消費行動パターンがお馴染みになり、そのイメージからCクラスは定年退職者のクルマという、あまり有難くないイメージで見られることになってしまったのである。
この状況を打破すべく開発されたのが先代W204系Cクラスだった。W204系は、あからさまに3シリーズを意識して、アジリティ(俊敏性)をキーワードにクルマを仕立ててきたのである。そして、W204系で叩きつけた挑戦の第2幕が新型W205系Cクラス。今回も主題はアジリティ――。再び掲げたそのメルセデス式アジリティを構成する柱は緩衝機構である。今回の試乗車C180アバンギャルドと、そしてC200アバンギャルドには電制ダンパーが、C200アバンギャルドAMGラインとC250スポーツではさらに金属コイルばねが圧縮エアばねに換えられて、これを硬軟自在に電制することで、プレミアムDセグメントにふさわしい康寧性と同時に、機動の俊敏をも獲得しようという算段である。