メルセデス・ベンツ C180アバンギャルド
公開 : 2014.08.26 16:37 更新 : 2017.05.13 12:51
巧い挙動の演出方法
新型W205系の運動特性も基本的にその道筋の延長線上にあるのだが今世代ではそれに操舵直後からの動きに新しい所作が加わった。操舵によってフロントが内側に圧される。このときのフロント横剛性は、3シリーズよりもずっと締まりがある。タイトなその横方向ゲインによって自転運動が始まろうとしたとき、後輪に軽快にスリップアングルがつき遅滞なくリヤが外に向かって行く。はじめは後軸あたりにある自転軸がスルスルと前に出ていくのである。あまりにその動きが爽やかなために、旋回が深くなったらヨーが増えすぎるのではないかと心配になる。だが、いつのまにか自転運動は収まり、最終的にはっきりと安定重視の姿勢を採ることになる。グリップ能力が平凡なピレリP7ランフラットが4輪とも悲鳴を上げて滑り出すようなところまで攻め込んでも、そのアンダー気味の姿勢は変わらない。こうして結果的に見れば特性は明確なアンダーステア方向なのだが、動き出しのところでクルマが自転を好むようなしぐさを見せるので、表面的な印象では旋回機動性に寄せた辛口のシャシーのように感じることだろう。なかなか巧い挙動の演出方法だ。面白いのは、これだけ自転を印象の上で強調しておきながら、ブレーキングやパワーオンでの前後荷重移動に対して、旋回機動性が反応しないことである。後輪の横負荷が高くなったところでアクセルを開けても、電制スロットルの制御も加担するのか、BMWのようにリヤの出し入れを右足で調整するようなシークエンスは訪れない。
つまり、アジリティを謳ってCクラスは如何にも軽やかに自転するような動きに仕上げられているが、その一方で旋回機動にドライバーが容喙する余地は与えず、自らが絵に描く管理された俊敏性の構図は一切の加筆を拒否して静かに美しくあり続けるのだ。実にメルセデスらしいその方向性は、既に先代W204系で窺えたが、新型W205系では初動に軽快さが上書きされて完成度が高まっている。その意味では、BMWとは違う彼ら流儀のアジリティはきちんと進化していたわけで、そこは慶ばしいのだが、これを邪魔する要素が複数あった。まずは全車に標準装着とされた電制ギヤ可変ステアリングである。BMWに追随する形で採用されたそれは人間とクルマのインターフェイスとしては明らかに失格で、微舵フィールを混濁させ、前輪の仕事ぶりの連続的描写力もほとんど持たない。折角のシャシーの仕上がりが、これのせいできちんと味わえなくなっているのである。自ら珠を石に変える所業である。また高速高負荷において、エンジンのトルクが加速側でもエンジンブレーキ側でも瞬間的に波打ったりすることがあった。トランスミッションとの関連制御にまだ小瑕があるのだ。そのエンジンは、A/Bクラスでもうお馴染みになった直噴1.6ℓ直4ターボの156ps版であり、過給遅れは少ないが、代わりに高回転高負荷域でのパワー先垂れ感が明白なもの。過渡域トルクは確保されてこのシャシーの機動性を愉しむには十分な能力とは思うが、アジリティという売り文句を直進加速においても期待するならば、2.0ℓ直4ターボ中出力版のC250もしくは来年に登場する同高出力版のC300を待つほうがいいかもしれない。
(文・沢村慎太朗 写真・花村英典)
メルセデス・ベンツ C180アバンギャルド |
メルセデス・ベンツ C200アバンギャルド |
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価格 | 467.0万円 | 524.0万円 |
0-100km/h | 8.5秒 | 7.3秒 |
最高速度 | 223km/h | 235km/h |
公称燃費(JC08) | 17.3km/ℓ | 16.5km/ℓ |
CO₂排出量 | 134g/km | 141g/km |
車両重量 | 1510kg | 1540kg |
エンジン型式 | 直4DOHCターボ, 1595cc | 直4DOHCターボ, 1991cc |
エンジン配置 | フロント縦置き | フロント縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 | 後輪駆動 |
最高出力 | 156ps/5300rpm | 184ps/5500rpm |
最大トルク | 25.5kg-m/1200-4000rpm | 30.6kg-m/1200-4000rpm |
圧縮比 | 10.3:1 | 9.8:1 |
変速機 | 7段A/T(7Gトロニック・プラス) | 7段A/T(7Gトロニック・プラス) |
馬力荷重比 | 103ps/t | 119ps/t |
比出力 | 97.8ps/ℓ | 92.4ps/ℓ |
全長 | 4690mm | 4690mm |
全幅 | 1810mm | 1810mm |
全高 | 1435mm | 1435mm |
ホイールベース | 2840mm | 2840mm |
燃料タンク容量 | 66ℓ | 66ℓ |
荷室容量 | 445ℓ | 445ℓ |
サスペンション(前) | 4リンク | 4リンク | サスペンション(後) | マルチリンク | マルチリンク |
ブレーキ(前) | φ295mmVディスク | φ295mm Vディスク | ブレーキ(後) | φ300mディスク | φ300mmディスク |
タイヤ | 225/50R17 | 225/50R17 |