フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第2回】モンテゼーモロ以前のフェラーリ

公開 : 2024.04.20 08:05  更新 : 2024.04.26 15:02

エンツォ・フェラーリの哲学を直接受け継ぎ、フェラーリを世界最高の企業に復興させた男がルカ・ディ・モンテゼーモロだ。まさにカリスマといえるその足跡を、イタリアに精通するカー・ヒストリアンの越湖信一が辿る。

困難に直面していたフェラーリ

text:Shinichi Ekko(越湖信一)
photo: Shinichi Ekko(越湖信一)、Ferrari S.p.A.

モンテゼーモロの功績のひとつは、しばしば混乱を招いていたフェラーリと親会社フィアットとの関係を良好なモノに修復したことにある。今稿では少しまわり道となるが、彼がフェラーリの改革に手腕を振るう以前の、「モンテゼーモロ登場前夜」を振り返ってみたい。

創始者エンツォ・フェラーリへの求心力で成り立っていた「地方の中小企業」であったフェラーリも、1960年代後半にはビジネスに行き詰まりが見えていた。フェラーリのような少量生産メーカーにも、衝突安全性や排気ガスなどに対する規制がおよびはじめ、特にメインマーケットである北米への対応は待ったなしの状況であった。

1960年代後半になるとフェラーリは、衝突安全性や排気ガスなどに対する規制に加え労働争議も発生し、エンツォ・フェラーリを悩ませることになる。
1960年代後半になるとフェラーリは、衝突安全性や排気ガスなどに対する規制に加え労働争議も発生し、エンツォ・フェラーリを悩ませることになる。    Ferrari S.p.A

さらにイタリアにおける労働運動の激化により、富裕層向けプロダクツを生産するメーカー故にしばしば攻撃のターゲットともなり、生産性は大きく落ち込んでいた。

フィアット傘下に

そんな危機的状況の中、フェラーリはイタリアを牛耳る大手自動車メーカー、ジャンニ・アニエッリ率いるフィアットとの関係が深まっていった。1968年にはフィアット傘下となることが発表され、エンツォの私企業であったフェラーリにフィアットの力が大きくおよびはじめることになった。

巷では「エンツォはスクーデリアを担当し、ロードカー部門はフィアットの手にゆだねた」というような記述が見られるが、それは必ずしも実態を表わしているものではなく、エンツォの意思はすべてにおよんでいたという。

エンツォはロードカー部門で安定した収益を確保するため、量産モデルとなるディーノ206/246gtを送り出す。
エンツォはロードカー部門で安定した収益を確保するため、量産モデルとなるディーノ206/246gtを送り出す。    Ferrari S.p.A

少量生産による高付加価値ビジネスをモットーとしていたフェラーリだが、ロードカー部門で安定した収益を確保するのはそう簡単なことではなかった。206GTからはじまり246GT、308GT4、そして308GTBという量産志向のモデル開発でその道筋を掴んだものの、安定した品質での量産化には課題が多かった。

フェラーリの歴史は、創始者であるエンツォ・フェラーリの神格化で始まっている。合理性とは正反対たる感情で、顧客はフェラーリを手にすることを望んだ。

スポーツカーは欲しがる顧客の数より1台少なく作れ。そうすれば、買えなかった1人が次はもっと欲しくなり、皆はそれを見てさらに熱心に競争して買うだろう」というエンツォのマーケティング手法は、マスプロダクションを社訓とするフィアットには理解できない代物であった。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    越湖信一

    Shinichi Ekko

    イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。
  • 編集

    上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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