「スピード抑制」から生まれた高速ポルシェ カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(1)

公開 : 2024.04.20 17:45

フランス伝統の耐久レースでの活躍

カレラRSR 2.1ターボがベースにしたのは、自然吸気の3.0 RSRと同じく、Gシリーズと呼ばれた911のシャシー。ボディはFRP製へ置き換えられ、燃料タンクはシャシー中央へ移動。リアのトレッドは拡幅され、巨大なスポイラーが追加された。

最大の特徴といえたのが、2142ccの水平対向6気筒エンジン。巨大なKKK社製ターボが、1基組まれていた。

ポルシェ911 カレラRSR 2.1ターボ(1974年)
ポルシェ911 カレラRSR 2.1ターボ(1974年)

当時のグループ5では、排気量は3.0L以下という規定があった。ターボで過給される場合は、実際の排気量に1.4を掛けた数字を適用するというルールも存在した。

そのためポルシェは、ニカシル合金製のシリンダーライナーを追加してボアを調整。ストロークも2.0Lエンジンと同等に短くすることで、排気量を2.2L以下へ抑えた。

エンジン自体は、コンロッドがチタン製で、マグネシウム合金をクランクケースに使用。ナトリウム封入バルブも採用するなど、徹底的な高性能化が図られた。最終的に得た最高出力は、予選仕様で約500ps。本戦仕様では、安全を取り約450psに抑えられた。

1974年のル・マン24時間レースに帰ってきたポルシェは、ヘルベルト・ミューラー氏とジィズ・ファン・レネップ氏のペアで、総合2位という好成績を奪取。フランス伝統の耐久レースでの活躍が、空冷ターボ伝説の始まりとなった。

この姉妹関係にあるのが、今回ミュージアムからやってきたマッシブな1台。スパ1000km耐久レースでは表彰台を掴んでいるが、コンロッドの破損でル・マンでは結果を残せていない。

パワーが路面へ伝わるとフロントが軽くなる

ドライバーズシートへ座り、ステアリングホイールを握れば、自ずと興奮が高まる。助手席側には、耐久レース用の120Lタンクが固定されている。キャビンにはロールケージが張り巡らされ、そこへ括られたホースは、ターボブースト計に繋がっている。

一見、圧倒される雰囲気だが、深呼吸すると公道用のGシリーズでの既視感もなくはない。ダッシュボードに収まる扇型のメーターパネルに、いつもどおりのキー。クラッチペダルは驚くほど軽く、5速MTのシフトレバーは心地良く正確にスライドする。

ポルシェ911 カレラRSR 2.1ターボ(1974年)
ポルシェ911 カレラRSR 2.1ターボ(1974年)

ピットレーンからの加速直後は、驚くほど文化的。しかし4000rpmが近づくと、ゴロゴロとくすぶりバリバリと弾けるノイズが、2.1Lエンジンから放たれる。ポルシェのメカニックは、ターボラグが酷いことを忠告していた。

荒々しいノイズを鎮める唯一の方法は、アクセルペダルを目一杯踏み込むこと。充分な回転数まで高めればいい。

グッドウッド・サーキットの中速コーナー、ラヴァントを攻略するには、侵入時の左足ブレーキが必要になる。自然吸気より早めにアクセルペダルを傾けることで、予めブーストの上昇を誘っておける。

17インチのリアタイヤが生み出す、トラクションは凄まじい。パワーが路面へ伝わると、フロントノーズが軽くなるのがわかる。安定性が高いとはいえないだろう。

この続きは、カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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