ポルシェのシルエットマシンは速すぎた カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(2)

公開 : 2024.04.20 17:46

強烈な心象を残す大胆なマルティニ・カラー

流線型のボディが示すように、935/78の開発で念頭に置かれたのは、ル・マン24時間レースで走るミュルザンヌ・ストレート。それに先駆け、マシンを完璧に仕上げるべく出場したのが、1978年のシルバーストン6時間耐久レースだ。

ステアリングホイールを握ったのは、ジャッキー・イクス氏とヨッヘン・マス氏。かくして、予選ではポールポジションを奪取。ファステストラップを更新しただけでなく、2位でフィニッシュした935/77Aに7周差を付け、優勝を果たしている。

ポルシェ911 935/78(1978年)
ポルシェ911 935/78(1978年)

その勢いのままフランスへ。ところが、ル・マンでは燃料消費が多すぎ、メカニカルトラブルにも見舞われ、総合8位に留まった。それでも、ミュルザンヌでは366.1km/hを記録。プロトタイプレーサーのポルシェ936より、約20km/hも速かった。

ちなみに、1978年に総合優勝したのは、プロトタイプのルノーアルピーヌA442B。2位と3位には、936-78と936-77が入っている。

2024年に目の当たりにする935/78は、強烈な心象を残す。恐らく、レッドとブルーの大胆なマルティニ・カラーが印象を強めているのだろう。

ドアを開くと、フェルトで覆われたバケットシートが出迎えてくれる。911 カレラRSR 2.1ターボとは異なり、運転席は右側。FRP製のフロアパンへ足を載せないよう気を使うものの、それ以外の景色には親しみが湧く。

フロントガラスやリアガラスの形状は、紛うことなき911。リムが細めのステアリングホイール越しに、5枚のアナログメーターが見える。文字が打ち出された、ダイモテープのラベリングが懐かしい。

一拍おいてカタパルト発進のように強烈な加速

トランスミッションへ続くリンケージは露出。フロア部分には、アンチロールバー・アジャスターが突き出ている。シリアスなマシンなことは間違いない。

ギアは4段しかなく、最高速度は370km/h近く。レシオはかなり高いが、3.2Lツインターボ・フラット6は、カレラRSR 2.1ターボのユニットより遥かに扱いやすい。

ポルシェ911 935/78(1978年)
ポルシェ911 935/78(1978年)

ストロークの長いアクセルペダルを踏み込むと、一拍おいてブーストが上昇。カタパルト発進のような、強烈な加速に見舞われる。あっという間に935/78はストレートを走りきり、ブレーキングゾーンへ突入する。

暴れん坊なカレラRSR 2.1ターボより、俄然安定している。高速コーナーでも落ち着きは失わず、ラディカルRS10のようなシャシーバランスを備える。速く走るほど充足感が増し、コミュニケーション力も豊かになっていく。

ブレーキングをギリギリまで遅らせ、早めに加速へ移っていける。この扱いやすさから、カレラRSR 2.1ターボより、ル・マンのサルト・サーキットを20秒以上も速く周回できたのだろう。

思わず、ミュージアム・コンディションにあるレーシングカーの限界を探りたくなってしまう。マジウィック・コーナーからの脱出では、リアアクスルを悶えさせながら、700馬力以上のパワーを活用できた。

圧倒的な速さを披露した935/78ではあったが、強すぎるが故に、それ以前の935を購入していたレーシングチームは反発。ポルシェは彼らの意見を尊重し、1年限りでの引退が決まった。

この続きは、カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(3)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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