消滅は「人類の進歩」といえるのか? ベントレー・フライングスパー・スピードでザ・マッカランへ(2)

公開 : 2024.04.13 09:46

消滅は人類にとっての進歩といえるのか

特別なボトルと、捻れたように成形されたホルダーには、ベントレーの内装と同じ素材
を使用。ウッドとレザー、ガラスを職人が加工し、丁寧に仕上げられている。それを、6本のシェリー樽で寝かされたシングルモルト・ウイスキーが満たしている。

ベントレーを運転する時は、予め特別な高級車だということを、大半の人は理解している。現実離れした価格を踏まえて、印象や評価にはバイアスが掛かる。ウイスキーでも同じといえるだろう。

ベントレー・フライングスパー・スピード・エディション12(英国仕様)
ベントレー・フライングスパー・スピード・エディション12(英国仕様)

ホライズンは、既にすべて先約が決まっているそうだ。蒸溜所を旅立った瞬間から、価値はさらに跳ね上がる。市場にいる人々によって、本当の価値が決められていく。

ほんの少しだが、筆者も口にすることができて光栄だった。アルコール度数は46.6%ある。しかし、もう2度と味わえないことが、深く悲しいとまでは感じなかった。

ベントレーのW型12気筒エンジンは、今後2度と作られることはないだろう。四半世紀に渡って、エネルギー効率を高め、排出ガスを削減してきた。内燃機関としての性能を追求するため、多くの時間が割かれてきた。

これほど偉大なユニットが、この世から消えてしまうという事実は、人類にとっての進歩といえるのだろうか。それでも時間が経てば、W12エンジンのベントレーは、少しお手頃な価格で市場に流通し始めるはず。

まだ味わうチャンスはある。飲むと消えてしまう、シングルモルトとは違って。

番外編:高級ウイスキーの世界

ザ・マッカランは、ウイスキー界のベントレーだと例えられる。自ら主張されることもある。今回筆者が体験した限り、その表現に偽りはないだろう。

同社は創業200周年を迎えた老舗で、広大な敷地を有し、2018年には新しい蒸留所も竣工させた。2019年には、モダンなビジターセンターもオープンしている。

ザ・マッカラン「ホライズン」
ザ・マッカラン「ホライズン」

工場には36基の蒸留器が並んでおり、年間1200万Lものスピリットが蒸留されている。スタッフは約270名。その中の10数名という限られた人が、ウイスキーのフレーバーに影響を与える、強度63.5%のスピリットへ携わっている。

スコッチ・ウイスキーと呼べるようになるまでに、オーク樽で3年以上寝かせる必要がある。ザ・マッカランの倉庫には、45万本を超える樽が並んでおり、中には81年物も保管されているそうだ。

希少性が故に、偽造の恐れもあるとのこと。そのため、ボトルのキャップやシールは、継続的に技術開発が進められている。ウイスキーを転売する、投資目的のバイヤーも少なくないらしい。

「お酒を飲んで楽しむ人もいれば、残して楽しむ人もいます」。フェラスが説明する。「ホライズンのような例は、投資家からの注目も高くなります。二次市場は巨大です。しかし、わたしたちは実際に飲んでもらうよう、常に務めています」

オークションに出たような場合は、ボトルの番号を遡り、購入者へ連絡を取ります。関係性を見直したり、丁寧にお声がけすることもあるんです」

ベントレー・フライングスパー・スピード・エディション12(英国仕様)のスペック

英国価格:23万1200ポンド(約4370万円)
全長:5316mm
全幅:1978mm
全高:1484mm
最高速度:333km/h
0-100km/h加速:3.8秒
燃費:6.7km/L
CO2排出量:340g/km
車両重量:2437kg
パワートレイン:W型12気筒5950cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:635ps/6000rpm
最大トルク:91.6kg-m/1500-5000rpm
ギアボックス:8速オートマティック(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フライングスパー・スピードでザ・マッカランへの前後関係

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