色気の雫が落とされたレーシー マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディション

公開 : 2024.04.07 20:25

マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディションに試乗します。チェロの発売を記念した特別仕様である本車両は4438万円と通常モデルの3650万円から788万円のアップとなります。

MC20がケンタカクラではない理由

昨年ドライブしたクルマの中で、私的カーオブザイヤーに輝いたのはマセラティMC20だった。

カーボンモノコック製シャシーの中心に、マセラティ謹製のネットゥーノと呼ばれる630psもの最高出力を発生する3LのV6ツインターボエンジンが載っている。

マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディション
マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディション

なぜMC20の印象がダントツに良かったのかといえば、一言で言い表すのは簡単ではないのだが……性能面では車体がロードカーのレベルを超越して硬くて軽く、すぐに相思相愛になれるハンドリングを秘め、エンジンがパワフル&トルクフル。

しかしそれだけでは模範的なマセラティとはいえない。吹けあがっていく最中の野太い排気音、シフトチェンジの不協和音、ミドルレブからのターボの盛り上がり等々、たっぷりと込められた色気にこそモデナが薫るのである。

MC20のカーボンモノコックシャシーを設計しているのがイタリアのレーシングカー・コンストラクターであるダラーラであることは公然の秘密である。以前、そのダラーラが製作したダラーラ・ストラダーレなる公道を走るレーシングカーに乗せてもらったことがあるのだが、とにかく正確無比で無表情。まるで自動車界のケンタカクラだった。

そういえばかつてステアリングを握ったことがある純レーシングカーはおしなべて“速くてナンボ”の無表情だった。MC20はレーシングカーにマセラティの色気を何滴か落とした感じだったのである。

今回の主役はそのオープントップモデルのMC20チェロである。チェロ=空。ネーミングがいきなり粋なのである。

常時加速型、イタリアン・ジョブに浸る

青空に溶けてしまいそうなアクアマリーナ色のボディが美しい。

電動のトップはコクピットの上部のみで黒っぽいパネルになっている。斜め上方に跳ね上がるドアを開け、身体を雲のように白いシートに潜り込ませる。

マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディション
マセラティMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディション

ステアリングリムに使われているカーボン地が、内に隠された“炭素繊維製車体構造”を想起させる。やはりカーボン製のカバーの上にシフトボタンが配された細めのセンタートンネルはミッドシップマニアをニヤッとさせずにいられない。

パッセンジャーとの距離が酷く近くなるわけだが、それは副産物(?)のようなもの。より重量物を車体中心に近づけたい! というエンジニリング魂にこそ、マニアは心打たれるのである。

最大サイズのiPhoneを横向きにしたようなモニター内のスイッチで、実は液晶ガラスパネルになっているトップを開け放ち、ステアリング上に配されているブルーのボタンでエンジンを始動させる。するとクーペの時よりもさらに生々しく、背後からターボらしい若干不揃いな排気音が聞こえはじめた。

かつてビトゥルボ時代のマセラティのパワートレーンは、低めの1速でドンッとターボを覚醒させ、そこからブーストを保ったまま2-3-4-5速と繋いでいく常時加速型のマナーを持っていた。

以前のMC20も今回のチェロの加速にも、そんなビトゥルボの片鱗は感じられた。スポーツモードを選び、シフトパドルでデュアルクラッチATを操り、エンジンを8000回転近くまで引っ張れば、矢継ぎ早のシフトを要求される。これはドイツにもイギリスにもありえないイタリアンの性質である。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 撮影

    小川和美

    Kazuyoshi Ogawa

    クルマ好きの父親のDNAをしっかり受け継ぎ、トミカ/ミニ四駆/プラモデルと男の子の好きなモノにどっぷり浸かった幼少期を過ごす。成人後、往年の自動車写真家の作品に感銘を受け、フォトグラファーのキャリアをスタート。個人のSNSで発信していたアートワークがAUTOCAR編集部との出会いとなり、その2日後には自動車メディア初仕事となった。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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