マセラティMC20チェロをサーキットドライブ 「ネットゥーノ」V6の核をなすプレチャンバーを解説
公開 : 2024.04.15 17:45
袖ヶ浦FRWでマセラティMC20チェロにサーキット試乗します。ステアリングを握るのは以前に公道で同じくMC20チェロ・プリマセリエ・ローンチエディションを体感した吉田拓生。MC20公道とサーキットでの違いとは?
チェロ、最強のネットゥーノを積む1台
袖ケ浦FRWで開催されたマセラティの試乗会。
その主役は同社の新エンジンであるネットゥーノだが、一方パドックで最も輝きを放っていた1台はMC20チェロだった。
チェロ=青空のサブネームが示す通りのオープンモデルであるこのMC=マセラティコルセは、カーボン製のモノコックタブの後方に、最新のF1エンジンのテクノロジーであるプレチャンバーイグニッション(PCI)=副燃焼室点火をロードモデルとして初めて採用した3L V6ターボのネットゥーノをマウントしている。
純レーシングの技術が数多く投入されているMC20チェロを筆者は以前、公道で試乗したことがあるが、クルマの性格を考えれば最適なステージはサーキットだろう。
ロードモデルに搭載されるネットゥーノは現状4種類。グラントゥーリズモ用の490psと550ps、グレカーレ用の530ps、そしてMC20用の630psである。
ターボエンジンなのでコンピューターロムの設定によるスペックの作り分けは容易だ。しかし実際には搭載モデルの条件に合わせ吸排気系のレイアウトが異なっているという。エンジンルーム内の幅の制限によりターボをエンジンの前方に据えたフロントエンジン用、そしてエンジンの左右にターボを配置したMC20用である。
今回、袖ケ浦FRWのピットにはシリンダーヘッドの左右にターボをマウントしたMC20用が展示されていた。だがもちろん、外観からプレチャンバーの様子は窺えない。このエンジンのキモはそこなのだ。
ターボはサブ? プレチャンバーの効能
プレチャンバーイグニッション(PCI)は少量の混合気に予め点火し、その火炎が主燃焼室に勢いよく流れ込むことで燃焼の速度と強さを高めるシステム。
そんな基礎知識はあっても実物を見たわけではないので半信半疑のままだった。ところが今回、展示されているネットゥーノを凝視しているとスタッフの方が「これがプレチャンバーです」といって銅でできた筒状のパーツを手渡してくれた。燃焼室の真上にこのプレチャンバーが配置され、その上にスパークプラグが固定される。
副燃焼室というとそれなりの丸い空間を想像してしまうが実際は細長い経路のような形状。主燃焼室に突き出す先端には火炎を噴き出すための小さな孔が放射状に開けられている。これなら通常の点火より燃焼が速く行われるという説明にも納得がいく。
一方ネットゥーノは2本のプラグとインジェクターを備えており、回転数に応じてそのペアを使い分けている。低~中回転域ではポート内へのガソリン噴射と主燃焼室内における通常の点火。それが高回転時にはPCIによる素早い燃焼サイクルに切り替わるという。
近年は可変ノズルを備えたターボや電動ターボなど、タービン自体でレスポンスとパワーを高める取り組みが知られているが、ネットゥーノの場合はエンジンの燃焼に重きを置いている点が興味深い。それはターボユニットであるにもかかわらず11:1もの高圧縮比を実現している点からも窺えるのである。