もとはV12エンジンのGPマシン! ドライエ・タイプ145 シャプロン・ボディのスーパークーペ(2)
公開 : 2024.04.27 17:46
カーコレクター、ピーター・マリン氏のもとへ
彼が調べた結果、高回転用の特別なクランクシャフト・カウンターウェイトや多板クラッチ、トリプル・ゼニス・ストロンバーグ・キャブレターなどの特徴を発見。公道用にデチューンされた、レーシングユニットであることを突き止めた。
48772番のシャシーには、古いフェンダーとボディマウントの痕跡があり、フレンチブルーのグランプリマシン・カラー塗装が隠れていることも判明。リビルドを終えると、4000rpmまで回転し、187psと30.4kg-mを発揮することが確認された。
レストアでは、ボディサイドのクローム・モールとフェンダーラインを強調するため、ネイビーブルーとバーガンディという、ツートーンカラーで塗装。フランス製のクリアラッカーで仕上げられ、妖艶な姿が現代に蘇った。
レストアに投じられた期間は2年。お披露目の場に選ばれたのは、クラシックカー・イベントのブラックホーク・コンクールだった。
戦前のフランス車へ関心を持っていたカリフォルニア在住のカーコレクター、ピーター・マリン氏は、そのタイプ145へ注目。メルセデス・ベンツへ、1938年のポー・グランプリで勝利した過去が、強い動機を抱くきっかけになったという。
かくして2003年に入手するが、彼はディティールの仕上げに満足しなかった。インテリアとエンジンルームへ過剰に用いられた、クロームメッキやエンジンターン模様が気に入らなかったらしい。
完璧な仕上がりを求めたレストア
完璧な仕上がりを求めて、コロラド州のハイマウンテン・クラシックス社へレストアを依頼。ジム・ストランバーグ氏が率いる経験豊かなチームが、見事な仕事を施した。
彼らは、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスで優勝したブガッティ・タイプ57 SC アトランティックを仕上げた過去があった。同等の職人技が、丁寧に施されたことはいうまでもない。
レストア完了までの間に、マリンはドイツのカーコレクターへ連絡。シングルキャブレターが載ったエンジンとともに、別のタイプ145も購入した。
見た目はほぼ同じだが、ディティールには特徴的な違いがあった。ドイツから来たシャシー番号48773のボディでは、リアガラスは2枚に分割。ボンネットの側面には、メッシュのグリルが与えられていなかった。塗装はメタリックグレーだった。
この2台は、レストア後にペブルビーチ・コンクール・デレガンスへ出展。2010年からは、カリフォルニア州オックスナードに開館したマリンズ自動車博物館の目玉展示として、来場者を喜ばせててきた。
マリンは多数のコレクションの中で、アールデコ・スタイルの美しさを称える2台のドライエを、特に気に入っていたという。シャシー番号48772のタイプ145は、その筆頭だったとのこと。
2023年9月に、ピーターはこの世を去っている。彼が最後に申し出たのが、英国のハンプトンコート・コンクール・オブ・エレガンスに飾られる姿を、写真として残すこと。サイドビューという指定もあった。それは、生前の内に叶えられたそうだ。
協力:マール・マリン氏、ハドリー・グループ社、ピーター・リーブ氏、リチャード・アダット氏