まるで遊園地の乗り物:KR200 衝撃吸収ゾーンは自分の足:イセッタ 完璧主義なバブルカー・マニア(2)

公開 : 2024.04.28 17:46

遊園地にあるアトラクションの乗り物のよう

2台を乗り比べるため、ワトソンと交代。KR200には、イセッタのように英国でのライセンス生産の過去はない。だがこれは、正確には戦闘機メーカーだったメッサーシュミット社製ではなく、FMR社製となる。

1955年に西ドイツはNATOへ加盟。飛行機の生産が再び始まると、メッサーシュミットはマイクロカーで仕事をつなぐ必要がなくなった。

ブルーのBMWイセッタ 300と、オレンジのFMR KR200
ブルーのBMWイセッタ 300と、オレンジのFMR KR200

そこで1957年に、KR200を生産していたレーゲンスブルク工場を同社は売却。設計者のフリッツ・フェンド氏が率いる合弁企業、FMR社によって買い取られている。

KR200の特徴となるのが、小型飛行機のように、横へ大きく開くドーム型のキャノピー。イセッタより遥かに乗り降りしやすいものの、全高は低く、まったく異なる空間なことが面白い。遊園地にある、アトラクションの乗り物のようだ。

キャノピーのヒンジは、ヘビ柄のフェイクレザーで隠されている。ドライバーの正面には、ステアリングホイールではなく、操縦桿が伸びている。

ペダルは3枚並んでいるが、トランスミッションはバイクと同じ。シフトレバーがボディの右側から突き出ており、シーケンシャル・マニュアルを手で操作できるよう改良されている。

KR200は、1度エンストすると再始動しにくいという。レバーを引いて1速を選択。2ストロークの191cc 1気筒エンジンをブンブンと回し、発進する。クラッチペダルは小さく踏みにくいが、加速は驚くほど鋭い。振動も、驚くほど大きい。

次はブリュッチュ・モペッタのレプリカ

2ストロークだから、マフラーから白煙が上がる。操縦桿はダイレクトにフロントタイヤの向きを変え、僅かに傾けるだけでカーブを曲がれる。パッケージングは不安定そうだが、縦にシートが並ぶロングホイールベースで、意外なほど安定している。

運転体験は、クルマとはまったく異なる。しかし、不思議とイセッタよりクルマのように走れる。町外れのショッピングモールまで買い物に行くなら、イセッタの方が適しているかもしれないが、50km/h前後で山道を走るなら、KR200の方が適任だろう。

ブルーのBMWイセッタ 300と、オレンジのFMR KR200、オーナーのデイブ・ワトソン氏
ブルーのBMWイセッタ 300と、オレンジのFMR KR200、オーナーのデイブ・ワトソン氏

見事な状態のマイクロカーを2台も所有するワトソンだが、探究心は留まるところを知らない。イセッタのボディに塗られたブルーは、正確な色味ではないという。近日中に、再塗装を受ける予定だ。

別のプロジェクトも進んでいる。たった14台しか生産されなかった、三輪の英国製ロードスター、ブリュッチュ・モペッタのレプリカが、彼の細長いガレージで作られようとしている。

「これまでの経験と技術が、このクルマへ注ぎ込まれています。仕上げるのに5年はかかるでしょうね。もしかすると、それ以上かも。特に期限はありませんからね」。完成した暁には、AUTOCARでもご紹介できればと思う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

完璧主義なバブルカー・マニアの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事