類まれな「威厳と満悦」 ベントレー・コンチネンタルGT Sへ試乗 伝統継承のグランドツアラーを再確認 

公開 : 2024.04.29 19:05

疲れが癒やされる快適性と心が満ちる一体感

コンチネンタルGT Sは、案の定特別。シートへ座り、ブレーキペダルを踏む。早朝の市街地に反響するエンジン音が、少し申し訳なかった。プラグイン・ハイブリッド版の登場が早ければ、静かに出発できていただろう。

アウディRS6やポルシェカイエンをたじろがせるべく、V8ツインターボは意欲的なサウンドチューニングを受けている。プラットフォームはパナメーラと共有。発進時の印象は、やや重い。

ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)
ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)

それでも、グレートブリテン島南岸のフォークストンまで一息で走る。21インチ・ホイールを傷めないよう、ドーバー海峡を潜るユーロトンネルの積載列車は、ワイドボディ用の貨車を選んだ。

30分でトンネルを抜け、フランスへ。大地には適度な起伏があり、路面はうっとりするほど滑らか。

高速道路で、コンチネンタルGT Sは外界との素晴らしい隔離性を発揮するが、それだけではない。空気の塊を突き破り、アスファルトの上を疾走するような、スピード感も享受できる。

洗練させすぎると、クルマが死んでしまう。1日中運転しても楽しくないだろう。バランスさせるのは簡単ではないが、達成されれば、疲れが癒やされるほどの快適性と心が満ちるほどの一体感へ浸れる。

ピンク・フロイドのアルバム、「ザ・ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」を聞いている体験に近いかも。超高音質のステレオで。

二重ガラスで覆われた車内は、不気味ではない程度に静か。ダッシュボードのモニターは、回転させて隠せる。余計なデジタル技術のない車内が、気持ちを鎮めてくれる。

類まれな威厳と心理的な満悦感

フロントエンジンのフェラーリは、少しアグレッシブすぎる。最新のアストン マーティンDB12は理想に近いが、アルミニウム構造でやや共鳴音が大きい。

ロールス・ロイスレイスは最高かもしれないが、コンチネンタルGT Sも至高の体験。いずれも、夢に描くようなグランドツアラーではあるけれど。

ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)
ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)

ドライブトレインは、まさに夢心地。130km/hで走っていても、もっと急いでは?とささやくよう。対向車のヘッドライトが地平線から表れ、近づいてくる。英国ナンバーの、ベントレーフライングスパーだった。

パリから約300km南下し、ディジョンの街で給油。カンヌまで、90Lのガソリンを追加する。更に南のリヨンを過ぎたら、お待ちかねの山岳部。夕日を背にし、筋肉質なフェンダーラインを右へ左へ操る。

ところが突然の大雨。ワイパーは最も早いモードに。さっきまで、嘘のようなドライだったのに。そんな嵐をものともせず、圧倒的な動力性能で地中海との距離を縮める。

ホテルには、19:07に到着。メルセデス・ベンツの技術者から新しいVクラスのお話を伺いつつ、夕食を取るのにちょうどいい時間だ。

走行時間は11時間54分。平均燃費は9.7km/L。平均速度は109.4km/hとなった。

確かに、コンチネンタルGTは過剰なクルマかもしれない。しかし、何年も前からそうだった。16.0km/Lの燃費で走れるメルセデス・ベンツSクラス 400dでも、快適だっただろう。フォルクスワーゲンでも、問題なかったと思う。

だが、類まれな威厳は備わらない。ここまでの、心理的な満悦感も得られないはずだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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