アウディの美点を「ギュッと凝縮」 更新版S3へ試乗 333馬力にトルクスプリッター 少し真面目すぎ?
公開 : 2024.05.06 19:05
最大の進化はトルクスプリッター・デフ
ラリーとの結びつきが深いアウディなだけに、ドライバーを喜ばせる仕掛けも少なくない。ターボチャージャーはタービン音を響かせ、吸気音も刺激的だ。
アクラポヴィッチ社製のスポーツマフラーからは、今はなき5気筒エンジン風の排気音も楽しめる。アフターファイヤーの破裂音までは鳴らないが。
最新のS3の走りで最大の進化は、パワーアップではなく、多板クラッチ内臓のトルクスプリッター・デフ。ドライブシャフトの付け根に搭載され、リアタイヤ左右へ伝わるトルクを自在に操ることが可能になっている。
従来の前後アクスル間の分配率だけを調整するシステムと異なり、S3はボディの中央を軸に旋回。アウディの技術者は、条件が許せばテールスライドも可能だと、微笑みながら説明する。実際にきついカーブでプッシュしていくと、なかなか楽しい。
高速コーナーでは、頂点へ吸い込まれるよう。ライン取りが容易なだけでなく、一層の侵入スピードも許してくれる。リアアクスルの制御により、ステアリングへ加える入力も少なくて済む。
従来以上に旋回性は鋭い。ステアリングには、コミュニケーションを取りやすい重み付けが与えられ、レシオも操る自信を鼓舞してくれる。アンダーステアが抑えられたシャシーが、更にその傾向を強めている。
能力の高さは、「S」でイメージする水準以上。頂点に位置するRS3とは、ボディキットと1気筒多いエンジン、約80馬力多い最高出力程度といえそうだ。
操縦性はニュートラル もう少し自由でも良い?
一方、リアアクスルへ不満ない駆動力が伝わるが、一般道ではオーバーステアへ持ち込みにくい。ブレーキを引きずりながらカーブへ突っ込んでも、ライン取りは安定。終始落ち着いた反応で駆け抜けていく。
最適なギアが選ばれれば、一心不乱に加速へ移る。アクセルを思いのままに傾けても、電子制御がオンなら、天候の影響も驚くほど受けにくい。操縦性の特徴をヒトコトで表すなら、ニュートラルだ。
英国価格は、スポーツバックで3万7900ポンド(約728万円)から。300馬力超えの四輪駆動で、プレミアム・ブランドだと考えれば、現在では妥当な金額だろう。BMW M135i xドライブやAMG A35 4マティック+とは、ほぼ横並びにある。
LEDヘッドライトや、バーチャルコクピットと呼ばれるデジタル・メーターパネルは標準装備。ただし、塗装色の多くはオプション。19インチ・アルミホイールやパワーシート、高音質オーディオなどを組めば、4万ポンド(約768万円)は軽く超える。
アップデートを受けた4代目S3。グリップは素晴らしく、アンダーステアは抑えられ、ドライバーが抱ける自信は高い。
ニュートラルな操縦性と落ち着いたマナーで、どんな道でも安楽に移動可能。生々しすぎず、大人すぎない。季節に関わらず、確実に先を急げる。
A3以上RS3未満という、絶妙な位置には収まっている。S3という個性はある。ただし、それは真面目で淡白でもある。白シャツなのは良いが、ネクタイを緩めて髪を遊ばせるくらいの、更なる自由さがあっても良かったかも。
アウディS3 サルーン(欧州仕様)のスペック
英国価格:3万7900ポンド(約728万円/スポーツバック)/4万1200ポンド(約791万円/試乗車)
全長:4503mm
全幅:1816mm
全高:1415mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:4.8秒
燃費:12.5km/L
CO2排出量:183g/km
車両重量:1500kg
パワートレイン:直列4気筒1984cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:333ps
最大トルク:42.7kg-m
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(四輪駆動)