ボンドカー・ヒストリー
公開 : 2014.12.11 22:55 更新 : 2017.06.01 02:11
アメリカン・マッスルカーの流れはその後も続いた。1971年公開の “ダイアモンドは永遠に” では、懐かしのフォード・マスタング・マッハIが登場している。カー・チェイスを繰り広げ、ラスベガスの街中を警官に追っかけられながらすり抜けていく。途中、道を間違えて袋小路に入ってしまうが、道のスロープを利用してマスタングを片輪走行させ、無事潜り抜けて事なきを得たというシーンがあった。
ほかにも、こんなとんでもないシーンがあった。1974年公開の “黄金の銃を持つ男” では、1974年製のAMCホーネットがかなり重要な役回りを担った。3代目ボンドを演じたロジャー・ムーアを乗せたまま、360度回転しながら、タイの運河を飛び越えるというシーンだ。この撮影は、精密なコンピューターによるモデル解析と事前練習のおかげもあって、ワンカットで成功したという。
ロジャー・ムーア演じるボンドは、1977年上映の “私を愛したスパイ” では、ロータス・エスプリに乗って登場した。つまり、ボンドカーは、一旦アストン・マーティンから完全に離れたのだ。このロータス・エスプリはギミック満載で、ボタンひとつで潜水艇にもなるという優れものであったが、4気筒で2ℓ160psとボンドカーとしては明らかに非力であったようで、1981年公開の “ユア・アイズ・オンリー” では2.2ℓターボのロータス・エスプリ・ターボに変更されている。
エスプリ・ターボの自爆装置が作動して、クルマを失ったボンドは、当時の彼女のメリナ・ハブロックのシトロエン2CVに乗り換え、劇中で派手なカー・チェイスを繰り広げた。この2CVは見た目はキュートながら、撮影用に、本来の水平対向空冷2気筒エンジンの代わりに一つ上のクラスであったシトロエンGSの水平対向4気筒エンジンを搭載していた。2CVによるカーチェイスは2CVファンからも、ボンド・ファンからも今なお支持を得ている名シーンである。
アストン・マーティンは、その後再び協賛に戻り、1987年公開の “リビング・デイライツ” にヴァンテージ・ヴォランテを提供した。4代目ボンドのティモシー・ダルトンは、これまで何事もなかったかのように、アストン・マーティンを転がした。そのヴァンテージ・ヴォランテは “Q” 独自の改造が施されており、熱追尾式ミサイルや、フロント・ホイールにレーザー・カッターまでもが搭載されていた。
ピアース・ブロスナンは1995年公開の “ゴールデンアイ”から5代目ボンド役を演じているが、このプロスナンになってからボンドカーはことごとくドイツ車に変更になった。先鋭的なルックスを持つBMW Z3は劇中で発表され、発売直前のプロモーション的色彩を強く帯びた登場であった。しかし、ゼニア・オナトップの駆るフェラーリF355と対決する時は、あくまでDB5が主役であり、Z3は脇役的存在にとどまった。