70年前の人気「パワーアップ」チューニング モーリス・マイナー(1) 足りないのは馬力だけ
公開 : 2024.05.11 17:45
1948年発売のモーリス・マイナー イシゴニス氏設計の優れたシャシーに旧式エンジン アルタ社が提供したOHVキット 英国編集部が70年前の強化チューニングをご紹介
優秀なシャシーへ不釣り合いなサイドバルブ
偉大なアレック・イシゴニス氏の設計による、新しいモーリス・マイナーが発表されたのは1948年。戦後の英国に大きな話題を巻き起こした一方、手放しでは喜べない人も少なくなかった。
アメリカ車を彷彿とさせる、スタイリッシュなモノコックボディに、独立懸架式のトーションバー・フロントサスペンション。その頃としては際立って正確な、ラック&ピニオン式のステアリングラックも組まれていた。
ところが、ずんぐりと膨らんだボンネットの下に載っていたのは、戦前のモーリス・エイトでも活躍した、918ccのサイドバルブ4気筒エンジン。フォード・エイト用エンジンの技術をベースにしたユニットで、基本設計は1930年代と古かった。
最高出力は27.5psと、実際のところ充分ではなかった。優れた操縦性を叶えるシャシーを備えていながら、旧式のエンジンが足を引っ張ったといえる。
イシゴニスは、新しいマイナーに水平対向4気筒エンジンを積みたいと考えていた。実験用のプロトタイプ・ユニットが作られたものの、1947年にモーリス・モーターズの経営陣は開発を中止していた。
モーリス・オックスフォード用として、ひと回り大きい水平対向エンジンも、開発段階にあった。しかし、これも同時に計画は撤回された。
低いギアを選んでいる限り、意外に運転しやすい
サイドバルブ・エンジンを、オーバーヘッド・カム化する計画も存在した。エンジン部門は、970ccのモーリス・エイト用ユニットをベースに研究を進めていた。
傘下にあったウーズレーが有する、33psのプッシュロッド・ユニットも考えられた。しかし、その頃の工場の設備では大量生産が難しかった。オーバーヘッド・バルブのウーズレー・ユニットも登場するが、それはマイナーの発売後のことだった。
検討期間は長かったものの答えは出ず、マイナー自体の生産にも影響が及ぼうとしていた。最終的に、既存ユニットの継投が決まった。
今回お集まりいただいた3台のモーリス・マイナーの内、テリー・ブリセット氏が所有するブラックの1950年式を運転すると、そんなイザコザの結果を感じ取れる。当時の姿のまま運転できる喜びと同時に、挑戦的な体験であることもわかる。
2016年に納屋へ放置された状態で発見したブリセットは、丁寧にレストアし、コンクール・デレガンスで優勝する水準へ復元した。好調なエンジンは程よく洗練され、低回転域でのトルクが太い。低いギアを選んでいる限り、意外なほど運転しやすい。
2速、3速とシフトアップしても、小気味よく走る様子が楽しい。キノコのようなグリップの付いた長いシフトレバーは、カチッと音を鳴らしながら、滑らかに次のゲートへ固定される。
急いでレバーを動かすと、ギアの回転を調整するシンクロメッシュを痛めてしまう。落ち着いて、ニュートラルで1度レバーを止めると良い。