70年前の人気「パワーアップ」チューニング モーリス・マイナー(1) 足りないのは馬力だけ

公開 : 2024.05.11 17:45

すぐに限界が見える 運転席は居心地が良い

モーリス・エイトより車重は軽くないが、ブリセットのマイナーは、坂道でも粘り強く走る。平坦な道なら、悪くない質感で80km/hの巡航をこなせる。非力なサイドバルブ・エンジンでも、優れた空力特性がプラスに働いているのだろう。

とはいえ、すぐに限界が見えてしまう。緩やかな登り坂程度なら、4速のまま、アクセルペダルを踏み込むことで乗り切れる。しかし、倒し切った状態でも、それ以上加速することはない。

モーリス・マイナー(1949年式/英国仕様)
モーリス・マイナー(1949年式/英国仕様)

勾配のきつい坂では、パワー不足が露呈する。限られた馬力を巧みに引き出さない限り、勢いは鈍っていく一方。トルク自体は太いから、低い速度のまま、ゆっくり登ることはできるけれど。

「進む先を予想し、丘へ差し掛かる前に右足へ力を入れる必要があります。どんな場所だとしても、急ぐことは考えない方が良いでしょうね」。ブリセットが、優しい表情で説明する。

それを理解し、自らの運転を調整すれば、幸福感が湧いてくる。クラッチペダルは扱いやすく、油圧ブレーキは制動力に不足ない。姿勢制御は引き締まり、カーブでもボディはさほど傾かない。ステアリングの反応はとても正確だ。

飲み屋にあるスツールのように、座面の位置が高いバケットシートへ身を委ね、細身のステアリングホイールを回す。イシゴニスが美しくデザインしたダッシュボードへ、時折目を配る。マイナーの運転席は、居心地が悪くない。足りないのは、馬力だけだ。

オーバーヘッドバルブ化で38psへ向上

レーシングドライバーだった、ヴィック・デリントン氏は、そんな課題を一時的に解決した。「シルバートップ」と呼ばれたキットには、ツイン・キャブレター化する部品と、デリントン・エグゾーストと名付けられた高効率マフラーが含まれた。

しかし、モーリス・モーターズがブリティッシュ・モーター・コーポレーションとして再統合された2年後、1954年に究極のチューニング・キットが登場する。オーバーヘッドバルブの、アルミニウム製シリンダーヘッドだ。

モーリス・マイナー(アルタ・ヘッド仕様/1949年式/英国仕様)
モーリス・マイナー(アルタ・ヘッド仕様/1949年式/英国仕様)

これは、レーシングカーの開発を専門とする、アルタ・カー&エンジニアリング社を立ち上げた、ジェフリー・テイラー氏が考案したアイテム。1956年に同社は廃業してしまうが、1960年代半ばまで、デリントン社が提供を続けた。

オーバーヘッドバルブ化により、標準のキャブレターとエグゾーストのままでも、最高出力は38psへ向上するとデリントン社は主張。最高速度は99km/hから120km/hへ上昇し、48-80km/hの中間加速は、31.6秒から17.2秒へ短縮できるとされた。

キットの価格は、1954年で43.1ポンド。1961年の時点では52.1ポンドで、工賃は含まれておらず、安い改造とはいえなかった。

また、ツインSUキャブレター仕様へアップグレードも可能。追加で31.5ポンド必要だったが、デリントン・エグゾーストを組むことで、44psを得られた。アルタ社のレース用排気マニフォールドを装備すれば、49psへ引き上げることもできた。

この続きは、モーリス・マイナー チューニング(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・プレスネル

    Jon Pressnell

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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