クルマ好きにとって「大きな瞬間」 ジャガーFタイプ クーペボディとのお別れ 長期テスト(最終)
公開 : 2024.05.04 09:45
歴史的な節目を迎えたジャガーのクーペ 同社最後のV8エンジンを改めて堪能 失ったものの大きさと今後への期待を、長期テストで掘り下げる
積算1万1168km エンジンの生産が永久に止まるジャガー
AUTOCARでは、多くのモデルの長期テストを実施してきた。一定の期間が過ぎれば、次のモデルへ交代する。お別れはつきものだ。しかし、今回ばかりは特別だ。
筆者の自宅前から姿を消した大きなクーペは、新車では二度と購入できなくなった、ジャガーの1つの時代を象徴したモデルだった。内燃エンジンの生産を永久に止めてしまうブランドの、最後の1台なのだから。
これほど大きな節目を刻むモデルになると、ロードノイズの大きさやグローブボックスの建て付けの悪さなどは、気にならなくなる。もはや新鮮な状態では味わえない、特別なV8エンジンとパワートレイン・レイアウト、スタイリングへ気持ちは向かう。
ジャガーの5.0L V8エンジンは、大きなクーペを3.5秒で100km/hまで加速させる、スムーズでパワフルな動力源だった。最高速度は、299km/hに達した。
バッテリーEVなら、英国では2万5000ポンド(約480万円)で売られているテスラの中古車でも、それに匹敵する加速力が得られる。とはいえ、そこで享受できる体験はまったく異なる。
エグゾーストノートは、デフォルトでは控えめ。しかしボタン1つで、勇ましいサウンドへ切り替わる。右足へ力を込め、回転数を上昇させれば、極上の音響体験が始まる。Fタイプのすべてを解き放つには、サーキットが必要ではあるけれど。
ロングノーズのクーペボディとのお別れ
FRのシャシーも、ジャガー最高傑作の1つ。最近引退した技術者、マイク・クロス氏の遺作として相応しい。大きなタイヤを受け止め、英国の一般道で不足ない仕事を披露する。
8速オートマティックも素晴らしい。71.2kg-mもの最大トルクを路面へ緻密に展開しつつ、しっかり滑らかだ。
バッテリーEVなら、かさばるトランスミッションもエグゾーストシステムも不要になる。だからこそFタイプは、少々クラシカルな雰囲気を漂わせつつ、何度でも繰り返し堪能したい趣を持っている。
さらに、ロングノーズ・ショートデッキ、ロー・プロポーションという、クーペボディとのお別れは一層寂しい。ドライビングポジションは、お尻が路面へ付くのではないかと思うほど低い。ステアリングホイールの上からは、マッシブなボンネットが見える。
走り出すとノーズヘビーだが、直進安定性はレーザーのよう。低く滑らかなサイドビューのシルエットも、極めてジャガーらしい。
動力源が電気モーターになると、長いボンネットは必要なくなる。駆動用バッテリーはフロア下に並べられるため、スポーツカーという設定でも、ドライビングポジションはFタイプより90mm前後高くなるだろう。ブランドの特徴は、失われてしまう。