目の肥えた人に刺さる「縦目」 メルセデス・ベンツW108/W109型 UK版中古車ガイド(1) Sクラスのご先祖

公開 : 2024.05.12 17:45

メルセデス Sクラスのご先祖が、W108/W109型 優雅でモダンな見た目 縦に長いヘッドライトが特徴 エンジンは長寿命 複雑なサスの故障に注意 英国編集部が魅力をご紹介

目の肥えた人に刺さったW108/W109型

輸入関税が高かった半世紀前の英国では、W108型メルセデス・ベンツ250 Sは当惑するほど高額だった。値段の割にエンジンは2.5Lと小さめで、内装にはレザーやウッドが用いられず、支持を集めたとはいえなかった。

しかし、他を圧倒する乗り心地や操縦性、洗練された走行マナー、広々とした車内空間、並外れた堅牢性や製造品質などを備え、目の肥えたクルマ好きには刺さった。価格を頷かせる価値を見い出せた。

メルセデス・ベンツ280 SE(W108型/1967〜1972年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ280 SE(W108型/1967〜1972年/英国仕様)

車内のドアハンドルは内装とフラットで、ウインドウのワインダー・グリップはゴム製。堅牢なドアロックや、負荷がかかると倒れるバックミラー、パッド入りのステアリングホイール・ボスなどが与えられ、安全性も高かった。

シートは、MBテックスと呼ばれる高強度なビニールレザーが標準。オプションで選べたレザーも、高級感より耐久性が優先されていた。ボディの前後は、先端をゴムで覆ったバンパーが保護した。

他方、ステアリングコラムから伸びるシフトレバーと、ダッシュボード下から伸びるハンドブレーキ・レバーへ否定的な人もいた。フロントシートは左右に独立したものではなく、身体が横滑りするベンチシートで、クルマ酔いしがちといえた。

当時の試乗レポートを見ると、装備やスペックを称えつつ、ブレーキの性能は期待外れだったようだ。自社開発された、ポンプとタービンを用いたフルード・カップリング式オートマティックも、高回転域での変速がスムーズではないと指摘されている。

優雅でモダン 縦に長いヘッドライトが特徴

1960年代半ばのビッグ・メルセデスで、主流となったのはコイルスプリングが支えるW108型の250 Sや250 SE。その頂点に位置したのが、エアスプリングでロングホイールベース、3.0L直列6気筒を搭載したW109型の300 SELだった。

W109型では、ウォールナット・パネルがダッシュボードを飾り、パワーウインドウを標準装備。1968年には、6.3LのV型8気筒エンジンを搭載した300 SEL 6.3が登場。羊の皮を被った狼的なモデルとして、6526台が生産されている。

メルセデス・ベンツ280 SE(W108型/1967〜1972年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ280 SE(W108型/1967〜1972年/英国仕様)

1967年には、2.8L直列6気筒エンジンを積んだ280がW108型へ追加。1970年には、3.5LのV8エンジン版も登場している。アメリカ市場向けに、1971年には4.5LのV8も搭載されるようになり、排気量の小さい250はフェードアウトしていった。

スタイリングを手掛けたのは、フランス人デザイナーのポール・ブラック氏。過度な装飾がなく、落ち着いていながら優雅さもあり、モダンな印象を残した。縦に長いヘッドライトも特徴で、近年はますます風合いを増しているように見える。

ドイツのアウトバーンを、疲れ知らずで運転できるよう設計されており、高速道路との相性は抜群。運転席からの視認性は素晴らしく、操縦性は正確。広大な森林地帯を抜けるような一般道でも、豊かな時間を提供する。

ただし、V8エンジン版は燃費が悪く複雑。日常的に乗りたいと考えるなら、直6を探した方が賢明だろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マルコム・マッケイ

    Malcolm Mckay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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