「それはおかしい」 EV販売の過剰 “強制” に疑問 欧州の矛盾だらけ法規制が産業を壊す

公開 : 2024.05.03 06:25

ステランティスのカルロス・タバレスCEOは欧州の環境規制に対し疑問を呈している。需要を上回る販売義務化や、雇用を無視した法律が自動車産業を破壊すると指摘している。

需要超える義務化はおかしい

環境規制は自動車産業にどのような影響を及ぼすのか。欧州ではいち早くゼロ・エミッション化を推し進めるが、さまざまな “弊害” を懸念する声も上がっている。

欧米系の大手自動車メーカーであるステランティスのカルロス・タバレスCEOは、英国で導入されているZEV(ゼロ・エミッション車両)義務化を「英国にとって恐ろしいもの」とし、国内の自動車産業を「死滅」させかねないと指摘する。

英国工場で生産する小型商用車、ヴォグゾール・コンボ・エレクトリック
英国工場で生産する小型商用車、ヴォグゾールコンボ・エレクトリック

英国では、国内で乗用車を販売するメーカーに対し一定割合以上のZEV販売を義務付けている。今年設定された販売比率は22%で、2030年には80%、2035年には100%まで段階的に上昇し、事実上エンジン車の販売が停止される。

ステランティスは英国内に商用車の工場を抱えている。タバレスCEOは「EV販売の拡大を義務付けることは理にかなっていると思う」としながらも、「問題は、市場の自然需要に対するZEV義務の大きさと位置づけだ」と述べた。

タバレスCEOは「現在の英国市場におけるEVの自然需要は、義務の半分」と推定し、法律や罰金によって販売比率を高めることの危険性を指摘している。

「そういうところから物事が軌道から外れ始めるのです。現在のZEV義務化は、英国にとって恐ろしいものです」

「もし、EV販売構成比率が市場の自然需要の2倍になったり、守らなければ罰金を課すと言って追い詰められたりすれば、誰もがEVを市場に押し込むようになり、収益性が完全に破壊され、会社は破滅するでしょう」

「すべてが赤字になれば、ビジネスは破壊され、ビジネスを支える産業も破壊されることになります。それはおかしい」

「これは難しい話ではありません。業界を葬り去るような指令が出ているのです」

産業と雇用を無視してはいけない

タバレスCEOは4月24日、英国のマーク・ハーパー運輸大臣と会談し、現行のZEV義務化構造に対する「納税者に1ペンスの負担もかからない」2つの代替案を提案したという。

1つ目の提案は、乗用車と小型商用車(LCV)をZEV義務化の対象に含めるというものだ。これにより自動車メーカーに柔軟性を与え、目標達成のために人為的にEV販売を押し上げる必要がなくなるという。

ステランティスのカルロス・タバレスCEO
ステランティスのカルロス・タバレスCEO

2つ目の提案は、国内で販売されるかどうかに関係なく、英国で生産されたモデルをZEVの販売比率に加えることで、現地に生産拠点を置く自動車メーカーに報いるというものだ。

ステランティスの英国工場は2か所あり、主にプジョーやヴォグゾールの小~中型商用車を生産している。タバレスCEOは国内の産業と雇用に大きな影響を与えていると強調し、なぜ他の地域で生産しているメーカーと同じ条件が当てはめられるのかと疑問を呈した。

「現行のZEV義務化は、他国から(車両を)運んでくるメーカーと同じ扱いをするものです。英国で生産するメリットは何なのか? そして、どのように従業員の雇用を守るのか?」

「英国の工場で生産されたBEVは、英国内で販売されるものであれ、輸出されるものであれ、義務にカウントされるべきです」

「CO2は世界的な問題です。国境は関係ありません」

タバレスCEOは以前、好ましい生産条件を設けなければ、欧州諸国での雇用喪失や工場閉鎖を招くと警告している。国内で採算が取れなければ、結果的に産業にダメージを与えかねない。

「不採算事業で良いことは期待できません。もし、販売やマーケティングで赤字を出せば、製造業は下降線をたどるでしょう。我々は、利益を犠牲にしてまで市場シェアを高めるような会社ではありません」

また、ZEV義務化の内容の変更を急ぐべきだとして、「これは一晩で決めるべきことです。わたしの会社では、20分の会議で決定されたでしょう」と述べた。

一方、EVの普及促進のために英国政府が再導入を検討しているインセンティブ(購入奨励金)については、国民の税負担が増えることになるため賛同できないとの立場を示した。

EV普及のためには車両価格を全面的に引き下げる必要があり、車両の構造や生産ラインにコスト削減案を組み込まなければならないとしている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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