ハンドルで操る「悪役プロレスラー」 チャージャー/チャレンジャー ダッジのマッスルカー2台を比較(1)

公開 : 2024.05.11 09:45

生産終了を迎えたチャレンジャー V6エンジンで8代目へ進化するチャージャー 本物のフルサイズ・ダッジ アメリカ文化のアイコン V8の後ろめたい喜びを英国編集部が再確認

15年生産された3代目チャレンジャー

カナダ南西部の山岳地帯に位置する、フレーザーバレー。数マイル離れた場所で山火事が発生し、一部のエリアへの立ち入りは制限されていた。それでも、フレーザー川の渓谷沿いに伸びる、片側1車線の道路は走れるようだ。交通量は殆どない。

辺り一帯、木々が燃えた煙と匂いが充満している。そんな不穏な駐車場に停まる、ダッジ・チャレンジャーとチャージャーを眺めていると、内燃エンジンの時代が終わろうとしていることにも納得できる。この快楽は、罪悪感と背中合わせだ。

レッドのダッジ・チャレンジャー・スキャットパック・スインガーと、ホワイトのダッジ・チャージャー・スキャットパック 392スーパービー
レッドのダッジ・チャレンジャー・スキャットパック・スインガーと、ホワイトのダッジ・チャージャー・スキャットパック 392スーパービー

2008年に復活した3代目チャレンジャーは、2023年までの15年間、V型8気筒エンジンを積んでアメリカン・ノスタルジーを全身で表現してきた。あっという間だったと感じるのは、筆者だけだろうか。

初代チャレンジャーは、1969年の秋に発売された。ところが、1970年代前半にオイルショックが世界を襲い、わずか4年で生産終了へ追い込まれた。同様に大排気量の3代目も、2023年に生産は終了した。

英国へは、最後まで正規導入されなかった。極少数が、並行輸入されただけだ。それでも、この終焉を悲しむ人は少なくないだろう。

他方、マッスルカーの兄弟として誕生したダッジ・チャージャーは、2024年にモデルチェンジ。直列6気筒ターボか、電気モーターを搭載した次世代へ、バトンタッチすることが決まった。

V8エンジンに合わせて震えるボンネット

従来のチャージャーは4ドアサルーンのみだったが、チャレンジャーの後継も担うべく、新型では2ドアクーペも用意される。それでも、ボディサイズは僅かに小さくなり、轟音を響かせる大排気量のV8エンジンは選べない。

まあ、賢明な進化といえるだろう。恐竜は、いつまでも生き延びることはできない。

ダッジ・チャレンジャー・スキャットパック・スインガー(北米仕様)
ダッジ・チャレンジャー・スキャットパック・スインガー(北米仕様)

フレーザーバレーの西でうねるように伸びる、山岳路は空いている。自然吸気のV8エンジンには、6速マニュアルが組まれている。肉厚なタイヤは、ホイールアーチギリギリ。マッチョな人の筋肉が、ピチピチのTシャツから溢れ出ているようだ。

自動車の、未来への歩みは止まらない。だがその前に1度立ち止まって、前時代のマッスルカーを味わっておくべきだろう。

粘土質の土壌をえぐるフレーザー川は、下流に向けて幅が広くなり、河口付近に肥沃な大地を生み出した。その上流側は、ヘルズゲート(地獄の入口)と呼ばれるほどの激流。岩肌へ何本もトンネルを掘り、南北を結ぶ道が作られている。

レブマッチ機能を有効にし、シフトダウン。アクセルペダルを倒すと、チャレンジャー・スキャットパック・スインガーはフロントノーズを斜め上に向けながら、堂々と加速し始める。

ボンネットを前後に貫く2本の峰が、65.5kg-mの大トルクを生み出す、V8エンジンの回転に合わせて震える。見ていて小気味いい。

狭いトンネルへ飛び込む。ウインドウを開くと、ライフルで銃撃されているような、怒涛の排気音が反響する。ゾクゾクしない人はいないだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

チャージャー/チャレンジャー ダッジのマッスルカー2台を比較の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事