「宝石」のようなレーシングカー MGA ツインカム・ワークスマシン(2) 競技人生を静かに物語る凛々しさ
公開 : 2024.05.25 17:46
1960年のセブリング12時間レースでクラス優勝を狙ったMGA ツインカム DOHC化で最高出力58%増し 6台作られたワークスマシン 宝石のようなレーシングカーを英編集部がご紹介
1960年のセブリング12時間でクラス3位と4位
1960年3月26日、午前10時。アメリカ・フロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイへ集まった5万人の観衆が、FIA世界スポーツカー選手権の第2戦となった、セブリング12時間レースのスタートを見守った。
スターティンググリッドは、予選タイムの速さではなく、エンジンの排気量別。4台のMGAは、グランドツーリング1600クラスの後半に並んだ。
ところが、UMO 95のナンバーを下げたMGA ツインカムは、エンジンヘッドが故障。僅か3周でリタイアしてしまう。
他方、UMO 96とUMO 93は完走。クラスでは3位と4位、総合では24位と29位という、まずまずの結果を残している。ちなみに、総合優勝したのはポルシェ718 RS60だった。
クラス優勝は逃したものの、UMO 93は148周でフィニッシュ。1280kmを走りきり、MGA ツインカムはパワーとタフさを証明した。
ところが一般道では、信頼性の低さに少なくないオーナーが悩まされた。レースでの強さを前提にした設計が仇となり、従来以上のメンテナンスが必要なことを、多くの人が理解していなかったためだ。
それを受け、1960年以降の公道仕様は109psから101psへパワーダウンされ、安全マージンを確保。異常燃焼を避けるため、圧縮比も下げられた。もちろん、今回のUMO 93は109psのままだ。
競技人生を静かに物語る凛々しい佇まい
12時間レースを走り終えたUMO 93のMGA ツインカムは、フロリダ州のシップ&ショアモーターズ社を通じ、レーシングドライバーでカー・コレクターのポール・ブキャナン氏が購入。彼は1963年にバルブを吹き飛ばすまで、積極的にレースへ出場したという。
その後はしばらく車庫に眠っていたが、1967年にインディアナ州のライル・ヨーク氏が600ドルで引き取っている。この時、ピストン・スピードからレッドラインは7200rpmになるだろうと、ブキャナンは伝えたようだ。
バルブとヘッドを交換したヨークは、1970年にクラッチが故障するまで楽しんだ。この時点での走行距離は、8270kmに過ぎなかったらしい。以降の33年間は、乾燥した倉庫に保管された。
グレートブリテン島に帰ってきたのは2017年。必要な整備と補修を受け、コンクール・デレガンスへ定期的に出展されている。
2024年でも、ブリティッシュ・レーシンググリーンのMGA ツインカムは凛々しい。実戦で負った小キズが点在するボディは、これまでの競技人生を静かに物語るが、そこまで劣化はしていないようだ。
エンジンルームのバルクヘッド付近は、部分的に塗装が剥がれ、当初のアッシュ・グリーンが顕になっている。ゼッケンを記す白い丸も、オリジナルのまま。セブリングの時と同じ、40番が貼られている。
ルーカス社製のスポットライトが、フロントグリルを囲む。キャブレター用の吸気口が勇ましい。日没後に4台のマシンを素早く判別するため追加された、レッドのルーフライトも当時のままだ。