「宝石」のようなレーシングカー MGA ツインカム・ワークスマシン(2) 競技人生を静かに物語る凛々しさ

公開 : 2024.05.25 17:46

生粋のレーサー 発進直後から魅力的な体験

バッテリーのキルスイッチや、レザー製のボンネット・ストラップなどが、生粋のワークスマシンであることを主張する。運転席へ座る時の心構えが、自然と変わってくる。

ブラック・レザー張りのシートは、クッションが厚く想像以上に快適。ダッシュボードには、追加されたライト用のノブが備わる。バックミラー越しの景色を、リアのロールバーが分断する。

MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)
MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)

ドライバーの正面には、細いリムの4スポーク・ステアリングホイール。その奥に、6000rpmからレッドラインの回転計と、時速120マイル(約193km/h)まで振られた速度計、燃料計や油圧計などが並ぶ。

シートを1番後ろに下げても、大きなステアリングホイールは近い。左手の指を少し伸ばすと、シフトレバーへ触れられる。ペダルの間隔は丁度いい。

燃料ポンプのスイッチを入れ、スターターを始動。1.6L 4気筒ツインカムが目覚める。

1速のレシオはロングで、2速と3速はかなりクロスしている。4速では、1000rpm当たり30km/h程度。6500rpm以下に抑えて走っても、195kmまでは出せる計算だ。

ステアリングはラック&ピニオン式。低い速度でも重すぎることはなく、感触が濃い。切り始めから遊びは小さく、かなりダイレクト。ロックトゥロックは2.75回転と、適度にクイックで、発進直後から魅力的な体験が始まる。

小さな宝石のようなレーシングカー

雨の中目指したのは、キャッスルクーム・サーキット。手強いコーナーへ突っ込み、短いストレートめがけて加速させる。Bシリーズ・エンジンは、ワイルドに轟音を撒き散らす。アルミ製のハードトップ内に、大量のバルブ・ノイズが充満し反響する。

4000rpm以上では、鋭いアクセルレスポンスが爽快。ツインカム・エンジンのサウンドも粒が細かくなり、レッドラインまで回して欲しいと誘ってくる。

MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)
MGA ツインカム・ワークスマシン(1960年式/セブリング12時間レース仕様)

舗装の傷んだ一般道では、ボディとフレームが落ち着きなく揺れていたが、キャッスルクームの滑らかなアスファルトでは見違える。コーナリングはニュートラルで、鋭いパワーオンでもグリップ力に不足はなさそうだ。

ダンロップ社製のディスクブレーキは、高い制動力を得るには踏力が必要ながら、感触はソリッド。1度慣れると、安心感が生まれてくる。セブリングのコーナーで、よりパワフルな重いマシンを追い詰めた、往年の様子と重なってくる。

64年前の勇姿をそのまま保つUMO 93は、小さな宝石のようなレーシングカーだ。堅牢さと使い切れるパワー感が、MGA ツインカムの魅力を一層強調している。筆者の心が奪われたとしても、当然だろう。

協力:ウィル・ストーン社、キャッスルクーム・サーキット

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェイソン・フォン

    Jayson Fong

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

MGA ツインカム・ワークスマシンの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事