「2年で製品化」 中国車メーカーへ移籍のデザイナー、シュテファン・ジーラフ氏に聞く 欧州との違いは?

公開 : 2024.05.10 06:25

VWグループでアウディやベントレーのデザインを担当してきたシュテファン・ジーラフ氏。中国大手の吉利汽車に在籍した彼が、ブランドの作り方や開発プロセスの違いについて語った。

中国車メーカーの開発プロセスの違い

近年の自動車業界で最も著名なデザイナーの1人が、シュテファン・ジーラフ氏だ。主にフォルクスワーゲン・グループに所属し、数多くの職務の中でも特にベントレーアウディのデザインを主導してきたことで知られる。

2021年9月、ジーラフ氏は中国の自動車大手、吉利汽車(ジーリー)のグローバル・デザイン責任者に就任し、同社の全車種を監督することになった。就任と時を同じくして、グローバル展開を目指す新しいEVブランド、ジーカー(Zeekr)が設立された。

吉利汽車の各ブランドのデザインを統括するシュテファン・ジーラフ氏。
吉利汽車の各ブランドのデザインを統括するシュテファン・ジーラフ氏。

先ごろ開催された北京モーターショーで取材に応じたジーラフ氏は、ジーカーについて、そして中国車のデザインと開発プロセスについて語ってくれた。

――ジーカーのような新ブランドをゼロからどのように立ち上げるのですか?
「最初に、ブランド、ブランド哲学、コーポレート・アイデンティティ、特徴、ビジュアル・アイデンティティを定義します。すべてデザイン部門から生まれる、非常に重要なものです」

「そして、製品とブランド・ステートメントを結びつけるのですが、これは非常に西洋的な考え方です。しかし、中国メーカーはこの点(ブランド)を非常によく理解し、ここに重点を置き始めているとわたしは感じています」

――ジーカーと他のブランド(ポールスターやLynk & Co)との違いは?
「位置づけはLynk & Coより上ですが、ポールスターより上とは限りません。とはいえ、ジーカーはポールスターよりも高級車になると思います。ポールスターは非常に特殊で、良い意味でほぼ独断的ですが、素晴らしいクオリティの製品を提供しています」

「ジーカーの製品は、とても単一の型から生まれたようには見えません。そこは中国のお客様が非常に高く評価しており、同時に欧州の人が好むところでもあります。わたしはいつも、『ある章を作り終えたら、また変化させる』ということをデザイン哲学として掲げています」

――なぜ、これほど多くの新ブランドが誕生しているのでしょうか?
「それは電気自動車(EV)に関係しています。これは100年前にも見られた現象で、新しい生産者が世界中に現れましたが、もちろん全員が生き残ったわけではありません。適者生存とはこのようなことで、中国の業界でも同じことが言えます。新しいブランドが次々と誕生し、あるものは成功し、生き残るでしょうが、あるものは失敗するでしょう」

――あなたは中国向けの欧州車をデザインしているのですか、それとも欧州向けの中国車をデザインしているのですか?
「吉利はグローバルな製品を作っています。デザイン部門には33か国の国籍の人間がいて、自動的にグローバルな姿勢が生まれます。もちろん焦点は中国ですが、中国車を作っているわけではありません。グローバルなデザインと製品としてやっているのです」

――中国車の開発において、スピードはどれほど重要なのでしょうか?
「デザインのスピードだけでなく、開発プロセス全体のスピードも重要です。ジーカー007は、最初のスケッチから製品化まで2年でした」

「ヨーテボリ(スウェーデン)のデザインスタジオにはアナログモデルを作るためのすべてが揃っていますが、それ以上に重要なのはソフトウェアとバーチャル・リアリティ(VR)技術です。分刻みでデータをエンジニアに送り、同時にやり取りすることができますし、毎週、CEOが中国にいるときにVRプレゼンテーションを行っています。VRを使って、アバターとして一緒にモデルの周りを歩き回ることができるんです」

――これまで務めてきた他の自動車メーカーと比べてどうですか?
「フォルクスワーゲンは現在、4年間の開発期間を取っていますが、彼らも同様に加速させたいと考えています。歴史ある自動車メーカーにとって、工程を突然速くしたり、カットしたりするのは非常に難しいところがあると思います。フォルクスワーゲンやアウディの製品はどれも高品質ですが、吉利は同じことを短期間でできるようになりました」

――中国の自動車会社で働いてみて、どのような感想を抱いていますか?
「中国はかなり特殊なケースです。彼らは世界に対してもオープンで、物事が非常に速く、意思決定も迅速です。議論しなければならない別の権威やグループが存在しないため、何度も作り直す必要がなく、開発プロセスを加速させることができます。投資と予算もあります。わたしのキャリアの最後に、正直言って非常に満足のいくものです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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