ジープ・アベンジャー 詳細データテスト 低重心ゆえの良好な操縦性 日常的な乗り心地には注文あり

公開 : 2024.05.18 20:25  更新 : 2024.08.15 11:44

ピュアEVを設定するアベンジャーは、ジープブランドの新たな可能性を切り拓き、欧州市場で幅広く支持されそうなクルマに仕上がっています。ただ、英国のような荒れた道の多い環境での乗り心地は再考の余地がありそうです。

はじめに

デザイナー陣は、傍観者を納得させる仕事はまずまず成し遂げたが、アベンジャーは典型的なジープではない。まずはゼロエミッションのコンセプトカーが公開され、ジープ初のピュアEVとして商品化されたのだ。さらに、デザインから技術開発、生産に至るまで、すべてアメリカ国外で行われた。中心となっているのはイタリアとポーランドのティームだ。

寸法面でも新しい側面がある。1940年代のウィリスを除けば、ジープ史上最小のモデルだ。ちなみに、第2次大戦の戦場を62psで走り回ったジープの始祖は、アベンジャーより腕一本分くらい短い。

テスト車:ジープ・アベンジャー・エレクトリック・サミット
テスト車:ジープ・アベンジャー・エレクトリック・サミット

特徴的な7スロットグリルや短いオーバーハング、斜に切ったプロポーションはラングラーを思わせるが、プラットフォームはオペルコルサと共通だ。これらをすべて考え合わせると、リアルなジープだと呼べるのか疑問が湧いてくるのも当然だ。

アベンジャーが掲げる狙いを達成する上で、14ブランドを擁するステランティスは、ジープ純粋主義者の考えは考慮しないこととしたようだ。このクルマの使命は、欧州市場において、ジープブランドの再定義と、遅々として伸びないセールスをイタリアで根強いジープ人気を頼みにして拡大することにあるのだ。

となれば、この新型ジープが小型クロスオーバーという形式をとったことに驚きはない。欧州ジープを率いるアントネラ・ブルーノ曰く、これは「正しいときに送り出した正しいクルマ」だ。

英国市場へはガソリン車とマイルドハイブリッドが導入されているが、今後の販売は、今回テストするBEVが中心的な役割を担っていくことになるだろう。フォードルノースマート、そして中国や韓国の競合モデルひしめくセグメントで、新世代のジープは勝ち抜ける実力と魅力を備えているのだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

関連テーマ

コメント

おすすめ記事

 
×