「EVは燃える」は本当か 知っておきたい車両火災の危険性 消防署の対応は?

公開 : 2024.05.14 06:05

EVの火災は発生確率こそエンジン車より少ないものの、一度燃え始めるとなかなか消火ができないと言われている。海外の統計や消防当局の対応策を紹介する。

EVの火災リスク

自動車が焼損してしまう車両火災のニュース報道はたびたび目にするが、電気自動車(EV)の存在感が高まる昨今、その安全上の懸念に注目が集まっている。

読者の多くは「EVは燃えやすい」とか「消火が難しい」といった意見を目にしたことがあるだろう。実際にはどれくらいの頻度で火災が発生しているのか、また一度出火するとどうなってしまうのか。

EV火災の危険性を振り返る。
EV火災の危険性を振り返る。

ここでは、海外の統計や消防当局の対応策を中心に、EV火災の危険性について紹介したい。

海外の統計

筆者(英国人)の住む英国を例に、EV火災の統計から紹介しよう。結論から申し上げると、EV火災の発生頻度はそれほど高いものではない。

航空宇宙関連機器メーカーのハネウェル社の調査によると、2022年7月から2023年6月までに英国で記録されたEV関連の火災は239件とされる。これは対前年比で83%の増加だが、背景にはEV保有台数が増加していることが挙げられる。

EV火災の発生確率はエンジン車に比べて低い。
EV火災の発生確率はエンジン車に比べて低い。

一方、ベッドフォードシャー消防救助局によると、2019年の車両火災発生件数はガソリン車とディーゼル車が1898件、EVが54件だった。

別の国のデータも見てみよう。スウェーデンの民間緊急事態庁(MSB)による調査では、EVはエンジン車よりも20倍出火しにくいとされている。

また、同庁と米国の保険会社による追加調査では、10万台のEVのうち火災による被害を受けたのは25台のみとされた。これに対し、エンジン車は10万台中1530台、ハイブリッド車は10万台中3475台と、はるかに高い確率で火災に見舞われている。

EV火災が注目されるのには多くの理由がある。そもそもEV自体が目新しい存在で、ニュースに取り上げられやすい。火災の様子もショッキングなもので、多くの場合「ヒュー」という音とともに毒性の強い蒸気が発生し、激しく爆発することもある。

そして、一度出火すると信じられないほど消火が難しい。鎮火したと思っても、数時間後、数日後、あるいは数週間後に再び火の手が上がる。ただ単に水をかけるだけではなかなか火が消えず、消火後もしばらく潜在的なリスクが残るのだ。

このようなことから、EV火災を心配する人が増えるのも無理はないだろう。

消防当局の対応

では万が一、EV火災に見舞われたらどうなるのだろうか。EVがある程度普及している国や地域の消防当局は、さまざまな対応策をとっている。

例えばベッドフォードシャー消防救助局は、EV絡みの事故や火災が発生した場合、「消防車の1台が回収車両を追って消防署の荷降ろし場まで戻り、対応を支援する」と発表している。つまり、回収したEVから出火する可能性を考慮して、回収車両(レッカー車やトラック)に消防車が随伴するというのだ。

コペンハーゲンの消防当局が導入しているEV「封印」用のコンテナ。
コペンハーゲンの消防当局が導入しているEV「封印」用のコンテナ。

また、事故に巻き込まれたEVの車種と、そのバッテリーと絶縁スイッチの場所を消防隊員が特定できるシステムを開発したという。

EV火災に対処する最善の方法については専門家の間でも意見が分かれているが、一般的には、大量の水でバッテリーを冷却する(ただし再出火を完全に防ぐことはできない)、防火ブランケットを使用する、有毒な蒸気から消防隊員を守る呼吸装置を用意するといった方法がある。あるいは、EVがただ燃え尽きるのを待つかだ。

不活性ガスで消火しようとしても、化学的な炎であるため空気中の酸素を必要とせず、効果は薄い。また、爆発や事故時の衝撃によってバッテリーから飛び出したセル(電力を蓄える部品)が自然発火する可能性もあるため、現場の周囲をよく点検する必要がある。

消火後の車両や部品はすべて撤去し、建物や他の車両から離れた場所に保管しなければならない。一例を挙げると、スクラップヤード火災の約25%は使用済みリチウムイオンバッテリーが原因とされている。なお、塩素ガスが発生する可能性があるため海水は使用できないが、車両や部品を水に浸しておくことも対応策の1つだ。

デンマークの首都コペンハーゲンの消防当局は、EV火災における独特の対応策を打ち出している。焼損したEVや出火のおそれのあるEVをコンテナに封印し、平台のトラックに載せて保管するというものだ。

コンテナ内部のノズルから水を注入し、危険性が排除されるまで安全な保管場所に置かれる。場合によっては数週間、監視のもと保管される。その後、使用した水はろ過され、処理した上で廃棄される。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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