「EVは燃える」は本当か 知っておきたい車両火災の危険性 消防署の対応は?
公開 : 2024.05.14 06:05
EVは「危険」なのか?
このような火災のリスクは、消費者心理的にもEV購入の障壁になりそうだ。英ニューカッスル大学の純粋応用電気化学の教授で、全英消防署長協議会の上級顧問でもあるポール・クリステンセン氏は、EVに対する安全上の懸念を払拭しようと取り組んでいる。
「日産自動車のバッテリー工場建設をサポートした身として、余裕があれば明日にでもリーフを購入したい。EV火災は発生件数が少ないので心配はいりませんが、注意は必要です」
「リチウムイオンバッテリーは、非常に小さなスペースに大量のエネルギーを蓄えています。2008年以降、バッテリーはそのリスクに対する我々の理解を上回る勢いで普及しています。我々は遅れを取り戻そうと努力しており、必ず追いつくことができるでしょう」
クリステンセン氏は消防隊員や初期対応者の理解を深めるために、これまで英国、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの消防当局で講演を行ってきた。講演ではまず、リチウムイオンバッテリーのセル構造の説明から始めるという。
セルの中には、混合金属酸化物でコーティングされた正極(カソード)と呼ばれるアルミニウムの薄片がある。これと対になるような形で、グラファイトでコーティングされた銅の負極(アノード)が配置されている。両者の間には、有機溶媒に浸されたプラスチック製のセパレータがあり、そこに少量の「添加物」が含まれているのだが、その正体はバッテリーメーカーにしか分からない。
バッテリーの充電・放電に応じて、リチウムイオンが正極と負極の間を移動する。
満タンのセルには4.2Vの電圧があるが、意外なことに空の状態でも2.5Vの電圧が残っている。日産リーフは約192個のセルからなる24個のモジュールを搭載し、テスラ・モデルSでは7000個以上のセルからなる16個のモジュールを搭載している。たとえ車載スクリーンに「残量0%」と表示されていても、実際にはかなりのエネルギーを保持しているのだ。
これが「熱暴走」につながると考える科学者もいる。熱暴走とは、発熱により水素や酸素といった可燃性ガスが発生し、セルの破損が連鎖してしまう現象だ。この時、有毒な蒸気が発生し、爆発する危険性もある。一度熱暴走が始まると、車載のバッテリー管理システムやサーキットブレーカーでは止めることができない。
「バッテリーの発火を抑えることはできても、消すことはできません」とクリステンセン氏は言う。
クリステンセン氏は、衝突事故などでバッテリーに穴が開くと発火するということを実験で実証し、「バッテリーケースが凹んでいたら危険」と注意を促している。
広範囲に対策を
破損以外にも、外部から高温にさらされたり、充電時に過熱したりすることでも火災につながってしまう。さらに懸念されるのは自然発火で、製造時に不良品のセルが1つでも混入すると出火のリスクがある。
「どんなに経験豊富で注意深いメーカーが品質管理に細心の注意を払っていても、欠陥のあるバッテリーセルは出ます」
バッテリーの炎はガスバーナーのようなもので、周囲にも燃え移りやすい。そのためクリステンセン氏は、多くの車両が並ぶ立体駐車場やバス車庫などにおけるEVの安全性を考慮するよう求めている。
「ドイツでは、半年あまりの間に3つのバス車庫が炎上したことがあります。トンネル、フェリー、駐車場、貨物船など、EVを見かける場所はすべて安全上のリスクがあると考え、適切な措置を講じる必要があります」
また、近年クラシックカーなどの既存車両をEVに改造するというレストモッドが人気を集めているが、コストを抑えるために中古のバッテリーが使われるケースも少なくない。
「中古のリチウムイオンバッテリーの安全性は誰にもわかりませんし、グローバルな試験基準もまだ考案されていません」
「解体工場で違法に取り外され、再び市場に流通する粗悪なバッテリーもあります。リチウムイオンバッテリーの安全性については多くの研究が行われていますが、全員で協力する必要があります。今はまだ、学習の途中段階にあるのですから」