「一生モノ」の真面目なサルーン ボルボ144 E 走れる状態では英国唯一 人気小説家の愛車(2)

公開 : 2024.05.26 17:46

英国ボルボによってレストアされた、小説家がオーナーだった144 積極的に取り組まれた安全性の向上 生産国のアイデンティティが伝わる 一生モノといえる1台の魅力を、英編集部が振り返る

少し高めの価格を正当化した標準装備

1970年代初頭の英国には、トライアンフ 2.5 PIやローバー3500Sなど、新しいサルーンが存在した。イタリアからは、アルファ・ロメオのベルリーナも輸入されていた。

これらの方が運転は楽しく、スタイリングは洗練されていた。それでも、堅牢だという定評がボルボ140シリーズの販売を伸ばした。

ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)
ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)

メタリック塗装やヘッドレストが標準装備で、少し高めの価格を正当化。リアのシートベルトや、子どもによるいたずら防止のロック機能も、オプションで選べた。当時のボルボは、英国では6番目に売れた輸入車メーカーへランクインしていた。

今回ご登場願った144 Eは、1974年式。英国では著名な作家、レスリー・チャータリス氏へ5月に届けられている。俳優のロジャー・ムーア氏が主演だったTVドラマシリーズの脚本を手掛け、ボルボ1800を登場させ、ブランドの知名度向上へ貢献した人物だ。

その1800と同様に、彼の144 Eもボディ色はホワイト。成功を掴んでいた彼は、欲しいクルマを買える余裕があったはずだが、ボルボから提供された真面目な4ドアサルーンを長く愛用したようだ。

シンガポール生まれだったチャータリスは、1930年に冒険小説の「ザ・セイント」を執筆。エキゾチックなラゴンダM45ラピードを物語に登場させるなど、特別なクルマを好んだ。ハリウッド映画「ザ・セイント」の脚本を仕上げた後、英国へ戻っている。

英国では唯一の走れる状態にある144 E

140シリーズは1974年まで生産され、合計130万台を販売。キャビン部分の設計が受け継がれた、240シリーズへ交代する。エンジンはオーバーヘッドカム化され、ステアリングはラック&ピニオン式へ。サスペンションも、ストラットへ一新された。

チャータリスが所有した144 Eは最終年の製造に当たり、エアコンやフォグランプが装備された珍しい仕様だ。走行距離は、僅か5万4700km。これ以上のコンディションの140シリーズを見つけることは、世界的にも難しいだろう。

ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)
ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)

現在のオーナーは、英国ボルボ。往年と変わらない姿でレストアし、公道走行可能な状態にある。同社によれば、グレートブリテン島に存在する、走れる状態としては唯一の144 Eなのだとか。

チャータリスは1993年に亡くなるが、生前に彼の運転手へこの144 Eをプレゼントしていた。しかし、彼を尊敬する気持ちが勝り、運転することなく保管していたそうだ。

2021年に、クラシックカー・オークションへ出品され、英国ボルボが落札。前後のフェンダーパネルとバンパー、サイドシル、ドアなどを新しいものへ置き換え、レストアされた。走行距離は短くても、1970年代のボルボは現実的には錆びていた。

高度な製造品質を示すように、見た目はキリリとしている。半世紀前のスウェーデンの自動車技術を、まじまじと実感することもできる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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