「排気ガス出さないで」 ZEV義務化とは何か? 英国を揺るがす環境規制、消費者への影響は
公開 : 2024.05.24 18:05
2035年までの年間目標
ZEVの販売比率は、2024年に22%、2025年に28%、2026年に33%、2027年に38%、2028年に52%、2029年に66%、2030年に80%と定められている。バンなどの小型商用車(LCV)についても同様の目標があり、2024年に10%からスタートし、2030年には70%となる。
しかし、2030年以降は目安に過ぎない。2031年に84%、2032年に88%、2033年に92%、2034年に96%、2035年に100%となっている。
また現段階では、2035年以降のエンジン車の新車販売を禁止する法律はない。2030年までに新車販売の80%をZEVにすることを義務づける法律があるだけだ。
以前の英国の法律では、メーカーはCO2排出量の企業平均目標を達成しなければならなかった。これがZEV義務化に組み込まれ、CO2に関する欧州連合の法律は廃止された。
少し複雑になるが、メーカーはZEV販売比率やCO2排出量を「プール」したり、「貯金」や「借金」したりすることができる。
まず簡単なところから説明すると、例えばフォルクスワーゲン・グループやステランティスといったグループ企業は、傘下ブランドでZEV比率とCO2排出量をプールすることができる。
グループであろうと、単独であろうと、メーカーは貯金(bank)と借金(borrow)ができる。貯金は、ZEV販売台数の超過分を文字通り蓄え、翌年の落ち込みに備えることができる。借金はその逆で、不足分を翌年から前借りすることができる。
ただし、借金には上限があり、2024年はZEV比率22%のうち90%までしか借りられない。2025年は50%まで、2026年は25%までとなっている。また、借り入れた分には3.5%の利子がつくため、翌年以降の目標達成は難しくなっていくばかりだ。
どのメーカーも、英国で販売する新車のZEV比率を公表していない。平均としては18~20%と推測されるが、あるメーカーは8%程度と考えられる。
他社とのEV比率・排出枠取引も可能
また、これも複雑な仕組みだが、ZEV比率とCO2排出量を「取引」することができる。例えばZEVで目標達成した場合、その超過分をクレジットとしてCO2の未達分を賄えるのだ。
CO2クレジットを利用してZEV不足分に賄うことは、レートの違いから経済的なメリットが少ないとされている。また、賄える上限は2024年に65%、2025年に45%、2026年に25%となっている。
借り入れや取引を行ってもZEV比率を達成できない場合は、メーカーに1台あたり1万5000ポンド(約300万円)の罰金が課される。この金額は、ZEVとエンジン車の「コスト差」と、過剰なCO2排出量に対する罰金に基づいている。
注目すべきポイントは、メーカーが他社から超過分のクレジットを購入できるということだ。例えば、JLR(ジャガー・ランドローバー)はクレジットを購入すると公言している。一方で、BYDやテスラなどは良い売り手となるだろう。クレジットの相場は不明だが、罰金額を超えることはないはずだ。
温室効果ガスの排出枠を国や企業が売買する排出権取引のように、こうした罰金回避のための取引は自動車業界に限ったものではない。
英国での年間販売台数が2500台未満のメーカーはZEV義務化から免除され、1000台未満のメーカーはCO2規制からも免除される。
抜け穴はない。ある関係筋は、この法律を「まるで自動車メーカーが書いたかのような防水性能(水も漏らさぬ内容)だ」と評している。
しかし、この法律には2026年に一度見直すという規定があり、その際には目標を変更することができる。政権交代によって計画が頓挫する可能性もあるが、2050年の北極星は動かないだろう。法律の廃止は現実的ではない。
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