コルベット C1の翌年に生まれた異端車 カイザー・ダーリン 161(1) フェンダーへ滑り込むドアは唯一?

公開 : 2024.06.08 17:45

435台が製造された、アメリカン・スポーツカーの異端車 フロントフェンダーの内側へ滑り込むドア 特徴的なフロントグリルに直6エンジン 190SLとイメージが重なる後ろ姿 英編集部がご紹介

西海岸の女性から支持を集めたロードスター

アメリカのスポーツカーといえば、1953年のシボレーコルベット C1が元祖かもしれない。だが翌1594年には、カイザー・モータースも2シーターのロードスターを提供し始めている。

1年間に435台という生産数を考えると、カイザー・ダーリン 161は充分な主流モデルだったといっていい。エドワーズ・アメリカやグラスパーG2など、極少量が作られた例外とは異なり、クラシックカーとして価値を認められるだけの認知度と希少性も持つ。

カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)
カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)

3セクションで縫製されたランドートップを、スレンダーなリアに背負う。パインティント・グリーンにレッド、イエロー、シャンパン・ホワイトなど、ボディ塗装のバリエーションは多彩。特にアメリカ西海岸に住む裕福な女性から、それなりの支持を集めた。

オープンカーらしく、ゆったり走らせることへ喜びを感じ、変わった開き方のドアを楽しめる理解力が必要でもあった。ボンネットは雨漏りし、ランドートップは閉めるのに時間を要した。快晴の多い、カリフォルニアという環境が向いていた。

自由な考えを持つカーデザイナーのハワード・ダッチ・ダーリン氏は、1930年代にパッカード・レバロンとブリュースターというサルーンのスタイリングを担当。美しい容姿を生み出し、一目置かれる存在になった。

1920年代にハリウッドで仕事を始めた当初から、彼は横へスライドするドアを研究していた。1946年には、ポケットドア・システムの特許を取得している。

フロントフェンダーの内側へドアが滑り込む

このポケットドアは、ヒンジで手前側に開くのではなく、日本家屋の雨戸のように横へ開閉するシステム。ボールベアリングを利用し、長いフロントフェンダーの内側へドアが滑り込み、開口部が展開した。

現在では、ミニバンなどでスライドドアは珍しくない。約40年後に量産されたBMW Z1は、ドアがサイドシルの中へ格納された。しかし、ドアがフェンダー内へ吸い込まれる構造を持つ量産車は、恐らくこれが唯一だろう。

カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)
カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)

ポケットドアは、開いた状態で走行も可能。目新しいものへの関心が高かった1950年代のアメリカ人にとって、魅力的に映ったことは間違いない。

ただしスライド構造は、カイザーの技術力では複雑だった。途中で動かなくなったり、急な坂道でドアが開いてしまうなど、不具合も少なくなかった。改善が試みられたものの、ダーリンは1年足らずの生産で姿を消してしまう。

ドアが正常に開いても、開口部は必要最低限。乗降性に優れたわけでもなかった。ダーリン 161では話題を集める最大の武器になったが、汚名を集める弱点でもあった。

とはいえ、1度乗り込んでしまえば、その頃としては評価できる走りを披露。特に高速道路でのクルージングは、優越感に満ちた時間だったはず。

ウイリスFヘッド・ユニットは、高性能な直列6気筒とはいえなかった。吹け上がりが悪く、静止状態から97km/hまでの加速には15秒を要した。それでも、最高速度は152km/hに届いている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

カイザー・ダーリン 161の前後関係

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