190SLとイメージが重なる後ろ姿 カイザー・ダーリン 161(2) おちょぼ口で今でも集客力は高い?

公開 : 2024.06.08 17:46

435台が製造された、アメリカン・スポーツカーの異端車 フロントフェンダーの内側へ滑り込むドア 特徴的なフロントグリルに直6エンジン 190SLとイメージが重なる後ろ姿 英編集部がご紹介

プロジェクト進展を遅らせた多くの課題

カイザー・ダーリン 161には、フェンダー内へスライドするポケットドア以外にも、悩ましい特徴があった。その1つが、ボディにFRPを採用したことだった。

7セクションの分割で成型され、コストは安く、コルベット並みの量産も可能ではあった。しかし実際は、金型の技術的な問題が立ちはだかった。

カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)
カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)

ヘッドライトの高さに関わる新しい規制も、プロジェクトの進展を滞らせた。ロードスターに相応しいエンジンの調達にも問題があり、発売は遅れた。ニューヨークとロサンゼルスでの発表時には多くの話題を集めたが、それを冷めさせるのに充分だった。

とどめを刺したのが価格。シートベルトが標準装備されたダーリン 161は、3668ドルで売られた。これは、直列6気筒のコルベットC1より145ドル高く、キャデラックやリンカーンに並ぶ数字だった。

それでも、ティントガラスにアクリル製サイドウインドウ、真っ白なステアリングホイール、シガーライター、ホワイトウォール・タイヤなどは標準。パワーは不足気味でも、目新しさを重視する人との契約を有利に運ぶ内容ともいえた。

レザーシートと、ボルト固定のワイヤーホイールはオプション。洗練された移動を約束するハードトップも、追加費用で選択できた。

オーナーを魅了したこのカタチ

自動車評論家には、スタイリングを好まない人もいた。石鹸皿のような、おちょぼ口のフロントグリルは話題の1つになった。スタイリングを描いたハワードは、フロントフェンダーに施された変更に不満を漏らしたそうだ。

英国からは、400ドル高価ながら、あらゆる面で優れていたジャガーXK120が上陸。
活気ある北米市場を求めて、MGやトライアンフも安価なスポーツカーを提供し始め、ダーリン 161にとっての逆風は強かった。

カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)
カイザー・ダーリン 161(1954年/北米仕様)

グレートブリテン島中部、メクスバラに住むビル・スミス氏は、古くからのアメリカ車マニア。これまで、シボレー・コルベットやマーキュリー・ターンパイク・クルーザー、ダッジ・ビジネスクーペなどをコレクションしてきた人物だ。

人とは違う新しいクルマを欲した時、彼はダーリン 161を探し始めた。「このクルマを初めて目にしたのは、1970年代のアメリカ車辞典でした。このカタチが、わたしを魅了したんですよね」。とスミスが微笑む。

クラシックカーとして価値は上昇傾向にあったが、コーチビルダーとしてレストアの経験を持ち、アメリカン・レストランのオーナーでもある彼は、本当に良い1台を時間をかけて選んだという。

「グーグルで検索したら、アメリカのミズーリ州にある自動車博物館からのほか、5台が売りに出されていました」。最終的に選んだのが、その博物館の1台だった。

彼が続ける。「2018年以来動いていなかったので、少し調整する必要はありましたね。最近は、ステアリングホイールをレストアしたところです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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