リセール・バリュー対決

公開 : 2014.12.19 23:50  更新 : 2017.05.29 19:51

”減価償却”。クルマを購入するならば、誰だってこの4文字のことを少しは考えるのではないだろうか。いや、考えるだけではない。どちらかというと、切っても切れない厄介な、あるいは恐ろしい存在といった方が適切かもしれない。

自家用車を買うとしよう。3年間で5万kmも走れば、残念ながら買った時の価値は一般的に半分ほどまで落ち込む。日常の足として酷使したならば、なおさらだ。

確かにクルマは乗れば乗るほど消耗するもの。けれどもなるべくその価値を保ちたいと思うのは、ごく自然なことだと思う。

ならば価値が下がりにくいクルマとはどんなものなのだろう。ここからの記事を読んで、これからの買い物が少しでもスマートになればと願う。

エグゼクティブGT対決 – ポルシェパナメーラ・ディーゼル vs メルセデス・ベンツCLS350ブルーテック

一流のメーカーから需要の多いモデルを選ぶことは、売却価格に残念な思いをしない手堅いコツということができる。

しかし大型サルーンを買うことは、元来バリューフォーマネーに優れているとはいえないものだった。理由は、いうまでもなく価値が低下する割合が大きいからだ。

ただしパナメーラ・ディーゼルは例外的な存在。仮にこのクルマを購入して3年が経ったとしても、買値に近いタグを掲げることができるのだ。少なくとも7速MTの911カレラSよりかは……。

同じく今年フェイスリフトしたメルセデス・ベンツCLS 4ドアの場合は3年後には買値の約80%以下くらいになる見込み。パナメーラの方がCLSよりも£12,000(220万円)高価なのは確かだけれど、価格の下げ幅を考えれば、実際には£2,000(37万円)程度の差にしかならない。

5年前に両者がデビューして以来、われわれは2台に5つ中4つの星を与えるとともに、非常に近い位置にランク付けしてきた。しかし数年後の値段も考慮するならば、(そして動力性能を考慮すればなおさら)パナメーラに高い評価を与えざるを得ない。

ただしキャビン・スペースに用いる素材の質感や高級感はほとんど同じだといっていいい。後席のヘッドルーム/レッグルームの余裕にもさほどの差は見当たらない。後席の真ん中には座席が用意されないから、2人の大人にとって十分な空間であるといえる。

もう少し詳しく見れば、メルセデスの方が古典的な高級感を打ち出していることがわかる。対するポルシェは細部まで配慮した装飾というよりもむしろ、モダンで実用的な印象が強い。だからといって安っぽい見た目や手触りの類は一切ない。したがって2台ともに居心地がよく、長旅でも苦痛になることは一切なさそう。

なかでも、よりくつろいだ状態で運転できるのはメルセデスの方。軽いコントロール・ウエイトと穏やかなペダル・レスポンス、閑やかな室内がそう感じさせてくれるのだろう。

ただし標準の金属バネと可変ダンパーの組み合わせは、もっとコンフォート寄りの仕立ての方がこのクルマのキャラクターに合っているとも思う。良くいえば路面の状況を捉えやすいということになるけれど、時に癇にさわるような上下動が目立つのだ。

その反面、高速道路の速度域では恍惚としたクルージングに一転する。それもただただ実直な安定感ではなく、しかるべきフィードバックを与えながら路面にピタリと吸い付くかのように走りぬけるのだ。

これだけでも恐れ入るレベルなのに、さらにその上をゆくのがパナメーラ。乗り味そのものは硬質なのだけれど、ダンピングがよく効くおかげで、メルセデスよりも穏やかな感覚をもたらしている。今回パナメーラはテスト車両の都合上、高さ調整が可能なエア・サスペンションを組み合わせていたため、コンベンショナルな金属バネを組み合わせ同士で比較してみると、また新たな発見がありそうだ。

ロード・ノイズが目立つのはパナメーラの方。おそらくエア・サスペンションも少なからず影響しているのだろう。ただしもちろん気になって仕方がないといったレベルではないのであまり憂鬱になる必要はない。

ステアリングはパナメーラの方が遥かに重い一方、転舵時の鋭さと情報量の多さはパナメーラに軍配が上がる。コーナリングの姿勢もパナメーラの方がフラットで、グリップや相対的なバランスもパナメーラ優勢だ。

静止状態からの加速の力強さはどちらもほぼ同じ。今回のフェイスリフトのおかげで、ようやくパナメーラがCLSに並んだともいえる。レスポンスと仕上げの丁寧さはどちらとも引けをとらず、ほとんど同じように駿馬のごときダッシュを披露してくれた。

燃費に関しては、CLSは楽に14.2km/ℓをマークした一方、パナメーラは13.1km/ℓにとどまった。この差をどう捉えるかは人によりけりだけれど、筆者は大した差ではないと思う。

ここまではパナメーラの方が目立つ結果となった。ただしパナメーラは避けて通れない脆弱性を抱き合わせている。あるいは慣れてきた向きも多いかもしれないが、どこから見てもぎこちない、そのルックスのことである。

特にディーゼルとなると、大径ホイールを履いていなければ、スポイラーも装着していないから、残念なルックスがより一層目立ってしまうのだ。CLSは ’メルセデスらしさ’ とは程遠いものの、パナメーラに比べたら明らかにまともだ。

しかし本項で大事なのは、ルックスよりもリセール・バリューである。値段が下がらず、楽しく運転できるクルマが欲しいのであればパナメーラ一択だ。3年、いや4年維持し続けたとしても、CLSをはじめとするその他のエグゼクティブ・サルーンよりも美味しい思いをすることができるはずである。

ポルシェ・パナメーラ・ディーゼル

価格 £65.634(1,206万円)
最高速度 259km/h
0-100km/h加速 6.0秒
燃費 15.6km/ℓ
CO2排出量 169g/km
乾燥重量 1975kg
エンジン V型6気筒2967ccツインターボ・ディーゼル
最高出力 301ps/4000rpm
最大トルク 66.2kg-m/1750rpm
ギアボックス 8速オートマティック

メルセデス・ベンツCLS350 AMGライン・プレミアム・プラス

価格 £53,545(984万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 6.5秒
燃費 18.5km/ℓ
CO2排出量 142g/km
乾燥重量 1845kg
エンジン V型6気筒2987ccターボ・ディーゼル
最高出力 259ps/3600rpm
最大トルク 63.2kg-m/1600rpm
ギアボックス 9速オートマティック

関連テーマ

おすすめ記事

 
最新試乗記

人気記事