余裕と安心の「サイレント」スポーツ ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(2) 創業者も認めた1台

公開 : 2024.06.15 17:46

一部の富裕層に限られた余裕と安心

ヴァンデンプラ社製のボディを持つ4 1/4リッターは、まさにそれを体現している。小さなキーを回してボタンを押すと、4.25Lの直列6気筒エンジンがすかさず始動する。

ツインSUキャブレターは、大きなエアクリーナー・ボックスが覆う。エグゾースト・マニフォールドは滑らかに弧を描く。エンジンのノイズを、可能な限り抑える工夫が凝らされている。

ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1936〜1939年/英国仕様)
ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1936〜1939年/英国仕様)

洗練性を世界へ伝えるように、排気音がささやくように放たれる。ところが、加速は極めて意欲的。多くのクルマが、80km/hを出すのに精一杯だった1930年代に、軽々と130km/hを超える余裕があった。最高出力は126psがうたわれていた。

今でも活発といえ、交通に紛れても気を使う必要はない。平地なら、2速で鋭く発進できる。アクセルペダルの角度に対して、ポジティブにエンジンは反応。ブースト付きのブレーキも、感心するほど良く利き、減速感を予想しやすい。

大きなボディは、リジッドアクスルとリーフスプリングで支えられているが、ダンパーは見事に衝撃を吸収。ステアリングはダイレクトで、余計なフリクションはない。

1938年の欧州では、徐々に自動車の普及が進んでいたが、これほどの余裕と安心を享受できたのは一部の富裕層に限られた。急な登り坂でも平然と加速するたくましさは、特別なものだった。

1日に600km走る旅行も、快適にこなせた。朝食後にロンドンを出発し、夕食間際に北部のスコットランドへ到着するような、クタクタの挑戦ではなくなっていた。1930年代のクルマ移動は、今以上に素晴らしい体験だっただろう。

揺るぎない地位を築いたダービー・ベントレー

高価なダービー・ベントレーは、1933年から1939年にかけて、独自の市場を開拓したに過ぎないともいえる。だが、秀でた製造品質とロールス・ロイスの洗練性、150km/h級の性能を融合させ、揺るぎない地位を築いたともいえた。

ボディ次第では匹敵する速さのサルーンは存在したものの、総合的な魅力で並ぶモデルは存在しなかった。運転手を雇うような、フォーマルな場面にも適した存在感と威厳を漂わせていた。自ら運転したい若い世代にとって、理想的なポジションにあった。

ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1936〜1939年/英国仕様)
ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1936〜1939年/英国仕様)

コーチビルド・ボディ込みのお値段は、平均的な住宅3軒ぶんに迫る約1500ポンド。ダービーの工場では、寄せられる注文に生産が追いつかなかったとか。同時に、より高額なロールス・ロイスの販売にも影響はなかったという。

オーナーには、オーケストラを率いたビリー・コットン氏から、レーシングドライバーのマルコム・キャンベル氏などが名を連ねた。誰しもが、1930年代のベントレーが目指すコンセプトへ共感していた。高速なグランドツアラーとして。

ベントレーを創業したWO.ベントレー氏も、公平な視点で仕上がりを認めている。自らの名前を掲げて生産されたモデルの中で、最高だと評価したことはマニア間では広く知られた事実だ。

協力:クラシック&スポーツカー・センター

ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1936〜1939年/英国仕様)のスペック

英国価格:1150ポンド(シャシーのみ/新車時)/18万ポンド(約3600万円/現在)以下
生産数:1234台(4 1/4リッター合計)
全長:4420mm
全幅:1752mm
全高:1574mm
最高速度:154km/h
0-97km/h加速:15.5秒
燃費:6.0km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1702kg
パワートレイン:直列6気筒4257cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:126ps/4500rpm
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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