自動車見本市が「消える」理由 モーターショーの首を絞めているのは誰だ

公開 : 2024.06.06 18:05

世界最大のモーターショーの1つ「ジュネーブ」が無期限で開幕を中止する。1905年から続く歴史あるショーだが、なぜ悲しい結末を迎えてしまったのか。理由は不況やパンデミックだけではない。

ジュネーブ・モーターショーの終焉

世界5大自動車見本市の1つに数えられるジュネーブ・モーターショー(Geneva International Motor Show, GIMS)が終焉を迎えた。一体、誰に潰されてしまったのか? 自動車業界に興味のある人なら誰でも考える価値のある問いだ。

まず、ジュネーブ・モーターショーが本当に終わったということは、認めざるを得ない事実だろう。プレスリリースでは「次回の開催を見送る」という発表がなされただけだが、これが単なる1年間の休止でないことは明らかだ(中東カタールでの “スピンオフ” ショーは存続する)。

今年開かれたジュネーブ・モーターショー2024では、ルノー・グループと一部の中国ブランドが参加したに過ぎない、
今年開かれたジュネーブ・モーターショー2024では、ルノー・グループと一部の中国ブランドが参加したに過ぎない、    AUTOCAR

組織委員会は「欧州の市場環境が今後の開催を成功に導くものではないという認識」から、同イベントを主催する財団の解散を目指している。

そして、1905年に初開催され、長らく欧州の自動車業界カレンダーの中で最も重要なイベントであったモーターショーの豊かな歴史が幕を閉じる。

近年はパンデミックの影響などで苦しい状況にあり、今年は2019年以来4年ぶりの開催となった。

スイスで開かれるジュネーブ・モーターショーは、その「中立的」な立ち位置と年の初め(毎年2~3月)という日程のおかげで、何十年もの間、業界全体から温かく受け入れられ、数え切れないほど多くのクルマの発表の場として利用されてきた。

ジャーナリストにとっては見逃すことのできないイベントであり、主要な経営陣らと一度に話をする絶好の機会であった。また、何百万人もの自動車ファンにとっても最新の技術を間近で見られるチャンスだった。しかし、今は違う。

欧米のモーターショーが苦戦し、中国のモーターショーが盛況な今、根本的な問題を理解することが重要だ。では、何がジュネーブ・モーターショーを潰したのか?

原因は「感染拡大」だけではない

最初の容疑者は、想像通り新型コロナウイルスだ。2019年にすでに出展企業数が減少し、縮小傾向にあったとはいえ、2020年2月の開催も大いに期待されていた。しかし、欧州への感染拡大を受けて開催直前に中止が決まった。

2021年も同じ理由で頓挫し、勢いを失った主催団体は2022年と2023年の開催資金を得ることができなかった。今年の開催までに、業界はショーなしでもやっていく道を見つけたように感じられる。ジュネーブに限らず、モーターショーの存続可能性についてはすでに懸念があったが、パンデミックがそれを急速に増幅させた。

フィアットは不参加だが、ショー前日にコンセプトカーを公開して注目を集めた。
フィアットは不参加だが、ショー前日にコンセプトカーを公開して注目を集めた。    フィアット

しかし、主催者側はパンデミックのせいだけにはできない。2020年に出展予定だった企業の多くは、すでに会場内で設営を行っていたにもかかわらず土壇場でキャンセルされ、挙げ句に出展料の払い戻しもなかったことに怒りを覚えている。

一部の企業は激怒し、次回以降の出展と支援を見送った。

主催者側は新型コロナウイルスが広まったことによって大きな痛手を受けたが、今にして思えば、もっとうまく対処できたはずだ。現団体CEOのサンドロ・メスキータ氏はここ数年、新しいアプローチで信頼を取り戻そうと努力していたとはいえ、彼らの態度が一因であったことは間違いない。

メスキータ氏はショーをより包括的で没入的なものにしようとしたが、制約もあった。外部イベントとあまり連携が取れないため、英国最大の自動車イベントであるグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのような盛り上がりを再現することはできなかった。

それでも主催者側は、業界各社がもっとショーを支援すべきだったと考えている。常設組織委員会のアレクサンドル・ド・スナルクラン会長は、パリやミュンヘンなどで行われる他のモーターショーとの「競争」を指摘し、「国内産業に恵まれている」と述べた。

今年、ルノー・グループと一握りの中国ブランドが中立国スイスのモーターショーに出展したのに対し、欧州ブランドの大半は出展を見送った。実際、フィアットはショーの前夜に5台のコンセプトカーを一挙公開し、注目をさらった。明らかに「ショーへの当てつけ」と思われる。

このフィアットの行動からは、もう1つの悲しい現実が見えてくる。今や、SNSや動画配信サービスで消費者に直接訴求できる時代。メーカーはもはやモーターショーを必要としていないのだ。

実際、一部のメーカーは独自路線を貫いている。トヨタポールスターキア(起亜自動車)はいずれも、ジャーナリストがモーターショー形式でアクセスできるイベントを開催している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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