息子が目撃したグッドウッド・リバイバル 純白のハンスゲン・スペシャル(2) 世界水準の厳しい現実

公開 : 2024.06.23 17:46

オールラウンダー的なスポーツカー・レーサー

FIA主催のクラシックカー・イベントは規則が厳しく、参戦には小さくない準備が必要になった。これを強力に進めたのが、レストアを得意とするジャガー・マニア、デビッド・ブラゼル氏。技術者として、名誉な仕事でもあった。

ブラゼルは、トランスミッションをオリジナルのモス社製4速へ置換。リアのリミテッドスリップ・デフも、当時のジャガーで用いられていたソールズベリー社製へ交換された。デフのスリップ量の調整で、操縦性が大きく変化することも判明したそうだ。

ホワイトのハンスゲン・スペシャルと、ダークブルーのジャガーXK120
ホワイトのハンスゲン・スペシャルと、ダークブルーのジャガーXK120

「ジャガーXK120とCタイプの中間の性能だろうと予想していましたが、そのとおりでした。シャシーは柔らかく、車高も高い。フロントエリアが腰高で、直線スピードで有利とはいえません」。とブラゼルが説明する。

「それでも操縦性は良好。予想通りに回頭し、テールが乱れることもありません。オールラウンダー的なスポーツカー・レーサーです。グッドウッドサーキットを50周ほど楽しんでから、パブに向かうこともできるでしょうね」

Cタイプと並べると、洗練度や品質が劣ることは否定できない。それでも、1950年代の小さなワークショップで作られた、ワンオフモデルとしては完成度が優れる。

ハンスゲン・スペシャルは、ステアリングホイールが寝かされ、座面は高め。見た目はCタイプの方が流麗で、機敏に走りそうに見える。メカニズム的には共通する部分が多いとはいえ、着座位置も低くコーナーでの安定感も勝る。

ウォルトの息子、ラスティ・ハンスゲン氏も目撃

2023年のグッドウッド・リバイバルへ向けて、無事にハンスゲン・スペシャルは整えられた。ステアリングホイールを握ったのは、ベテランレーサーのピーター・ハードマン氏とアンディ・ミドルハースト氏だった。

またとない機会を目撃するため、ウォルトの息子、ラスティ・ハンスゲン氏もアメリカ・テキサス州からの渡英を決めた。彼の孫も。「現役時代、レースを見るには自分はまだ小さすぎました」

2023年のグッドウッド・リバイバルで走る、ハンスゲン・スペシャル
2023年のグッドウッド・リバイバルで走る、ハンスゲン・スペシャル

「覚えているのはCタイプの方です。サーキットへ向かう途中、どちらが助手席へ座るかで、姉とよく揉めましたね」。とラスティが笑う。

往年の9時間耐久レースを模した、グッドウッド・リバイバルのイベントでは、ハンスゲン・スペシャルは16位でゴールした。「走っている姿を見れて、素晴らしい1日になりました」。とブラゼルが振り返る。

「ハードマンさんは、1分37秒のラップタイムを残しました。オリジナルのCタイプより、僅かに速いタイムです。でもそれ以上に、ウォルトさんのご子孫、ラスティさんがあの場にいたことが何より素晴らしい!」

その日、純白のハンスゲン・スペシャルの周囲が、大きな感動に包まれたことは間違いないだろう。

協力:ペンディン社

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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