今さら聞けない「eフューエルって何?」 長所と短所 新世代の “ガソリン” になり得るか

公開 : 2024.06.09 18:05

関心を寄せるメーカーは

eフューエルの最前線を走る自動車メーカーがポルシェである。ポルシェは2022年後半、6200万ポンド(約120億円)を投じて南米チリで合成燃料の試験生産を開始し、年間約2万8500ガロン(13万L)の製造を目標としている。

ポルシェの研究開発担当役員であるミヒャエル・シュタイナー氏は、「eフューエルの可能性は非常に大きい」と語る。

ポルシェやフェラーリ(写真)など複数の自動車メーカーがeフューエルに関心を寄せている。
ポルシェやフェラーリ(写真)など複数の自動車メーカーがeフューエルに関心を寄せている。

「現在、世界にはエンジンを搭載した自動車が13億台以上あります。eフューエルは既存のクルマの所有者にとって、ほぼカーボンニュートラルな代替手段となります」

EVに多額の投資をしているにもかかわらず、フォルクスワーゲンとポルシェのオリバー・ブルーメCEOは、合成燃料によって2020年代末まで純粋なエンジン搭載の911の寿命を延ばすことができると言う。

生産台数の少ない自動車メーカーも、2030年以降もエンジンを存続させるためにeフューエルの使用に前向きだ。

フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは、「エンジンにはまだやるべきことがたくさんある」とし、英イネオス・オートモーティブのリン・カルダーCEOもまた、「エンジンは存続するだろう」と断定的に予測している。

マツダも関心を示しており、欧州部門の研究開発責任者であるクリスチャン・シュルツェ氏はeフューエルについて「電動化の重要な追加要素であり、導入が容易で、使用台数が多いだけでも脱炭素化に絶大な効果を与えることができる」と述べている。

ルノー傘下のアルピーヌもeフューエルの開発に積極的だが、ボルボベントレーなどは消極的な姿勢を示している。

各国の対応、将来性は?

eフューエルへの対応についてはまだ各国の方針が定まっておらず、国家間で足踏みが揃っていない状況だ。

例えば英国政府は、2035年からバッテリーEVへの移行を事実上義務付けたが、これについて国内から「すべての卵を1つのカゴに入れた」というリスクを指摘する声が挙がっている。

ポルシェが南米チリで稼働させているハル・オニ工場
ポルシェが南米チリで稼働させているハル・オニ工場    ポルシェ

英国の運輸特別委員会は政府に宛てた報告書の中で、EV充電インフラの欠点と原材料不足を指摘し、「2030年(および2035年、2040年、2050年)の崖っぷちが近づき、関心が集中するにつれて、現実味が帯びてくる。(中略)既存の自動車に対処することは、英国の気候変動目標を達成する上で決定的な意味を持つだろう」と述べた。

先述の通り、eフューエル製造に必要な水素を調達するためには膨大なエネルギーが必要だ。国際エネルギー機関(IEA)の2019年の報告書によると、現在の工業用水素製造量のすべてを電力で賄うと仮定すると、3600TWhの電力が必要だという。

これは、2022年のEU全体の総エネルギー生産量を1000TWh近く上回るもので、そのうち再生可能エネルギーは39.4%に過ぎない。eフューエル製造で水素需要が高まれば、さらにエネルギーを消費することになる。

環境ロビー団体トランスポート&エンバイロメントのeモビリティ担当分析官であるヨアン・ジンバート氏は2022年、自動車車にeフューエルを使用すると「他分野で必要とされる再生可能エネルギー(電力)を吸い上げてしまう」リスクがあると述べた。eフューエルは、まだバッテリーによる脱炭素化が難しい航空機や船舶に転用すべきだという。

とはいえ、世界的にはeフューエルの機運は高まりつつある。ポルシェはパートナー企業ハイリー・イノベーティブ・フューエルズ(HIF)社とともに2022年12月にチリのハル・オニ工場でeフューエル製造を開始し、その後、米テキサス州で第2工場の建設を開始した。

独立系コンサルタントで持続可能燃料の専門企業コリトン社のアドバイザー、スティーブ・サップスフォード氏はAUTOCARの取材でこう語っている。「資源を活用し、全体として最良の結果を得ることが重要です。再生可能な電力の問題については、再生可能エネルギーが豊富な場所でeフューエルを作るべきです」

「ハル・オニ工場がチリにあるのも、それが理由です。太陽光や風力はチリの国内消費量を上回る過剰エネルギーとなっていますが、そのエネルギーを電力として消費国である欧州などに輸出することは難しい」

「そのため、エネルギー密度が高く世界中に輸出しやすい液体炭化水素の製造にエネルギーを使う方が、はるかに魅力的なのです」

コリトン社の事業開発責任者デビッド・リチャードソン氏は、全面的な転換が求められていると語る。「舞台裏では、(EVだけに切り替えて気候目標を達成することは)不可能だと非常に多くの人が心配しています」

「目先のことにとらわれず、今、何が正しいのかを問い直すべきです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事