伝説の「6輪F1マシン」を生んだ小屋 70年前のティレル工場が移転保存 英国

公開 : 2024.06.15 18:05

当時の傷や汚れをそのまま残す

グッドウッド・モーター・サーキットは2021年に計画許可を取得し、今年1月にようやく移転を開始した。まず、有害なアスベストの屋根を取り除き、処分する必要があった。その後、大工と木組みのスペシャリストであるアリスター・カー氏が5人のチームを率いて解体作業に取り掛かった。

グッドウッドで再建することを念頭に置きながら、どのように小屋を解体したのだろうか? カー氏は次のように語っている。

ケン・ティレル氏とF1マシンの製作工場となった小屋。
ケン・ティレル氏とF1マシンの製作工場となった小屋。

「写真をたくさん撮り、すべての部材にラベルを貼りました。もともとプレハブの建物だったので、分解してもまた組み立てられるように設計されていたんです。とてもラッキーでした」

部材の運搬にはさらに注意が必要だったが、カー氏率いるチームは約2週間で再建を終えた。当時の写真を何度も見直して選んだ、新しい窓枠(元の窓枠は腐っていた)、安全な屋根、レトロスタイルのコンセント以外は、すべて当時のままだ。

メドクラフト氏は、「できるだけ修理はせず、傷や凹みはそのままにしています。解体してみると、フロントとリアのウィング・エンドプレート、古いポスターやステッカーなど忘れ去られていた歴史の断片が見つかりました。古いティレルの看板の輪郭や、ペンキのスプレーの跡、エンジニアたちの机があった跡も残っています。過去の亡霊ですね」と語った。

正式なリニューアルオープンは9月に行われるが、今のところチームはこの小屋をどうするか思案中だ。

「博物館にするつもりはない」とメドクラフト氏は言う。「そもそもなぜあそこにあったのか、スピリットを再現できたらいいなと思います。レース・アカデミーを開催したり、エンジニアリング・ワークショップとして使ったりするのもいいでしょう。まだ使い道は決まっていません」

英国のモータースポーツ史で最も愛されている遺産の1つは、70年を経た今でも無事で、どうやら今年の “シェッド・オブ・ザ・イヤー” (英国の小屋コンテスト)の候補になりそうなのだ。ティレル氏にとっては、100歳の誕生日プレゼントになるだろう。彼はどこかで満面の笑みを浮かべているに違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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