ペニンシュラ・ホテルが現オーナー 石油王が好んだ特注オースチン・タクシー(2) 日産リーフの部品でEV化

公開 : 2024.06.30 17:46

贅沢な移動体験 回転半径の小ささに感動

ハイドパークの側道を抜け、ウェリントン・アーチのロータリーを回る。高級ホテルが立ち並ぶ、ベルグレービア地区へ近づく。なんともゴージャスな移動体験だ。

ヌバールは、現金を持ち歩かなかったことでも知られるが、自らの富を楽しみ、贅沢を謳歌しながら生きる術を知っていたのだろう。彼の時代には存在しなかったが、ヒーター付きの便座も、きっと気に入って使ったはず。

オースチンFX4 FLMパネルクラフト・ヌバール・タクシー(1960年)
オースチンFX4 FLMパネルクラフト・ヌバール・タクシー(1960年)

ロンドンを自ら運転した際には、25フィート(約7.6m)という小さな回転半径に感動したとか。ブラックキャブへ求められる規定通り。

英国では、小回りが利くことをターンオン・ア・6ペンスと表現する。6ペンスがどれほど小さなものか、それを口にした彼が理解していたのかは不明だが。

協力:ザ・ペニンシュラ・ロンドン

番外編:ロールスやメルセデスも愛用

ヌバールは、ロールス・ロイスに派手なコーチビルド・ボディを与えたことでも知られている。最初の例はパンテクニコンと名付けられ、1947年に作られた。

ホイールスパッツとカウリングされたフロントグリルが特徴で、シルバーレイスの醜い兄弟のように見えた。フロントシート側のルーフは、例によってスライド式で格納できた。だが、ロールス・ロイス側は仕上がりへ納得していなかったようだ。

ヌバール・グルベンキアン氏が所有したメルセデス・ベンツ600(1963年式)
ヌバール・グルベンキアン氏が所有したメルセデス・ベンツ600(1963年式)

他にも複数が作られたものの、最も印象的なのが、コーチビルダーのフーパー社が手掛けた1台。1956年に仕上げられ、ハードトップのルーフには透明なアクリルがはめられ、大空を眺めることが可能だった。

石油王は、このロールス・ロイスを南フランスのコートダジュールで使用。電動サンシェードが追加され、エアコンが最適な温度に車内を保った。当時としては最先端の、テレビも備わっていた。

1960年には、ロングホイールベースのシルバークラウドIIも注文。コーチビルダーのジェームス・ヤング社とFLMパネルクラフト社へ、専用ボディを作らせている。

ヘッドライトは4灯で、例によってフロントシート側のルーフは格納式に。インテリアは、細かい部分までカスタマイズされていた。

1960年代後半には、フランス・パリのシャプロン社へメルセデス・ベンツ600のコンバージョンを依頼。メーカー側は改造を拒否したが、偽名を用いて車両を手配している。ルーフはガラスへ張り替えられ、作業には車両以上のコストを要したという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

石油王が好んだ特注オースチン・タクシーの前後関係

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