狂気の空力マシンで300馬力 スターリング・モスが395km/hを記録した日 歴史アーカイブ

公開 : 2024.06.17 18:05

1957年、英国のトップF1ドライバーであるスターリング・モス氏が300馬力の実験車「EX181」を駆り、395km/hの速度記録を残した。

戦前・戦後の「最高速」競争

今年4月に開幕した北京モーターショーで、「EXE181」と名付けられた電動ハイパーカー・コンセプトが公開された。英国をルーツとするMG社が創立100周年記念で製作したもので、超低車高とセンター配置のシングルシートが特徴だ。

未来的なコンセプトカーだが、実は67年前の名車「EX181」からインスピレーションを得ている。「EX」とは「Experimental(実験的な)」の意で、当時の陸上速度記録を塗り替えた歴史がある。

MG EX181に乗るスターリング・モス氏
MG EX181に乗るスターリング・モス氏

この物語を正しく語るには、時代をさらに遡る必要がある。1930年、エンジニアでありレーシングドライバーであったジョージ・エイストン氏とアーネスト・エルドリッジ氏は、MG創業者のセシル・キンバー氏と手を組む。エイストン氏が経営するパワープラス社のスーパーチャージャーを使用して750ccクラスの最高速記録を奪い、両社のプロモーション材料とした。

ベースとなったのはMGの新型Mタイプ・スポーツカーで、エンジン出力を3倍の60psに増強し、流線型ボディの「EX120」を作り上げた。そして、フランスのモンレリー・サーキットで750cc車として初めて最高速度160km/hを超えた。

エイストン氏は激しいクラッシュで入院を余儀なくされたにもかかわらず、次の「EX127」の製作に取りかかった。風洞実験によって空力性能をさらに高め、ドライビング・ポジションを低くした。このマシンは750ccクラスの速度記録を190km/hまで引き上げることになる。

1934年、エイストン氏は1100ccクラスにも狙いを定め、MGのKタイプ・スポーツカーをベースに「EX135」を製作。最高速度190km/hを記録した。

数年後、EX135は伝説的なエンジニア、リード・レイルトン氏によって改良され、低く滑らかなカプセル型ボディを獲得。そして1939年5月、レーシングドライバーのゴールディ・ガードナー氏の運転により、ドイツのアウトバーンの長い直線区間を使い、1100ccおよび1500ccクラスで320km/hを超える記録を打ち立てた。

EX135はポテンシャルが高く、戦後何度も改良が加えられ、最終的には350cc、500cc、750ccのクラスでも記録を更新した。

記録を脅かすような競争相手が少なかったにもかかわらず、MGは挑戦をやめなかった。1954年、カプセル型ボディにモーリス・マイナーの948cc 4気筒Aシリーズエンジンの改良版を載せた「EX179」を開発。ドライバーを引退したエイストン氏がプロジェクト責任者となった。

しかし、EX179は期待に応えることができなかった。結果的に、1939年以来MGが保持してきた1500ccクラスの記録を塗り替えたのは、1957年の「EX181」だった。

記事に関わった人々

  • クリス・カルマー

    Kris Culmer

    役職:主任副編集長
    AUTOCARのオンラインおよび印刷版で公開されるすべての記事の編集と事実確認を担当している。自動車業界に関する報道の経験は8年以上になる。ニュースやレビューも頻繁に寄稿しており、専門分野はモータースポーツ。F1ドライバーへの取材経験もある。また、歴史に強い関心を持ち、1895年まで遡る AUTOCAR誌 のアーカイブの管理も担当している。これまで運転した中で最高のクルマは、BMW M2。その他、スバルBRZ、トヨタGR86、マツダMX-5など、パワーに頼りすぎない軽量車も好き。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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