狂気の空力マシンで300馬力 スターリング・モスが395km/hを記録した日 歴史アーカイブ

公開 : 2024.06.17 18:05

平たい車体に押し込まれるF1ドライバー

MGの研究開発では、餅を引き伸ばしたような平らなボディで、左右の後輪をぐっと近づけるのが理想的とされた。後部にはフィンが取り付けられ、ドライバーは小さなキャノピーの中に入ることになった。

都合の良いことに、英国のトップF1ドライバーであるスターリング・モス氏は身長170cmと比較的小柄であった。それでも車内には最低限のスペースしかなく、つま先はノーズにほぼ触れ、脚にステアリングラックが当たっていた。エンジンはリクライニングシートの真後ろにある。

スターリング・モス氏、米ユタ州のソルトフラッツで395km/hを達成。
スターリング・モス氏、米ユタ州のソルトフラッツで395km/hを達成。

このデザインは風洞実験でも効果があったようで、EX179に比べて前面投影面積が10%減少し、空気抵抗は30%も減少した。

ちなみにエンジンは、MGの新型Aスポーツカーに搭載されていたダブル・オーバーヘッド・カムの4気筒Bシリーズで、ショーロックのスーパーチャージャーと84%メタノール燃料を使い、7300rpmで300psを発揮する。それゆえ、このEX181は「轟音の雨粒(Roaring Raindrop)」とも呼ばれた。

同年8月、EX181はMGの英アビンドン本社から米ボンネビル・ソルトフラッツに輸送され、モス氏はヴァンウォールでのペスカーラGP優勝直後にイタリアから駆けつけた。

雨で記録挑戦が中止になるのではと心配されていたが、最終日の午後、モス氏はMGに乗り込み、ステアリングホイールを握った。その数分後、ジョージ・エイストン氏が計測小屋から395km/h(時速246マイル)を達成したことを確認。

その2年後、今度はフィル・ヒル氏の手によって410km/h(時速255マイル)を記録し、2000ccクラスの記録を塗り替えた。

これがMGにとって最後の記録挑戦となった。もし、今年北京で披露されたEXE181がマーケティングツールなら、やるべきことは1つだ。

記事に関わった人々

  • クリス・カルマー

    Kris Culmer

    役職:主任副編集長
    AUTOCARのオンラインおよび印刷版で公開されるすべての記事の編集と事実確認を担当している。自動車業界に関する報道の経験は8年以上になる。ニュースやレビューも頻繁に寄稿しており、専門分野はモータースポーツ。F1ドライバーへの取材経験もある。また、歴史に強い関心を持ち、1895年まで遡る AUTOCAR誌 のアーカイブの管理も担当している。これまで運転した中で最高のクルマは、BMW M2。その他、スバルBRZ、トヨタGR86、マツダMX-5など、パワーに頼りすぎない軽量車も好き。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事