1日にスピード違反2回! ミドルブリッジ・シミターGTE(2) 王室へピッタリのグランドツアラー

公開 : 2024.07.06 17:46

450か所以上の改良 走り出すと魅力が増す

ミドルブリッジ・シミターが製造したGTEは、リライアント時代から450か所以上の改良が施されている。ボディや内装の製造品質は、明らかに改善されている。凹凸の目立つアスファルトではリアハッチがきしむものの、耳障りなノイズはない。

パワーアシストは備わるが、ステアリングホイールは重い。駐車時に使う筋力を、僅かに減らしている程度だ。上級グランドツアラーが目指されていても、ビニールレザー張りのダッシュボードと相まって、水準には届いていない。

ミドルブリッジ・シミター GTE(1989〜1990年/英国仕様)
ミドルブリッジ・シミター GTE(1989〜1990年/英国仕様)

シートとアームレストに張られた、少し時代遅れだったベロア生地が高級さを感じる部分。英国王室が、豪華な車内だと呼ぶことはないだろう。レザーはオプションで用意されていたが。

シートは四角く、これもビニールレザー張り。クルーズコントロールは備わるものの、同時期のフォードの量産車と比べて、特別な印象は得にくい。

とはいえ、走り始めると魅力は増していく。重いステアリングは、高速道路での安定性へつながる。セルフセンタリング性が強く、真っ直ぐ突き進める。手のひらへ、不快なキックバックが伝わってくることもない。

ホイールベースが長く、ギア比はロング。高速巡航が得意分野といえ、同時期のロータス・エクセルやアルファ・ロメオGTV6に勝る。GTEのオーナーの多くは、高速道路での安楽さを特徴に挙げるが、筆者も理解できる。

V6エンジンはトルクが太く、変速は少なくて済む。スポーティな印象は薄いものの、ブレーキやクラッチペダルも扱いやすい。

王女のニーズを満たしたスポーツワゴン

グレートブリテン島の隅々まで、短時間に向かう用事の多かったアン王女には、適した能力をGTEは備えていた。主張が控えめな見た目も好ましく、彼女へ望ましいグランドツアラーだったとはいえる。

他方、注文を集められなかった理由もわかる。新車時の英国価格は2万4663ポンドで、エクセルやルノーアルピーヌGTAなどより高価だった。

ミドルブリッジ・シミター GTE(1989〜1990年/英国仕様)
ミドルブリッジ・シミター GTE(1989〜1990年/英国仕様)

日本にも、優れたグランドツアラーやスポーツクーペが存在していた。トヨタスープラ日産フェアレディZ(300ZX)が、有能な選択肢として支持を集めていた。英国価格は近くても、遥かに速かった。

実用性では勝っていたが、同時期のクーペもリアハッチとリアシートを備えていた。BMW 325i ツーリングなど、有能なステーションワゴンも登場していた。英国製であることに強いこだわりがなければ、選択肢の上位にGTEが入ることはなかっただろう。

1980年代に妥当なアップデートを施さなかったリライアントだが、それを買い取ったミドルブリッジ・シミターは素晴らしい仕事を施した。究極のGTEに仕上がっていることは間違いない。王女のニーズを満たしていたことも。

同時に、生産終了を決めたリライアントの判断は正しかったともいえる。結果として、ミドルブリッジ・シミターは79台しか作っていない。

伝統的な英国製シューティングブレークの、最後を飾ったGTE。自ら創造したスポーツワゴン市場は、自らの手で幕が閉じられた。唯一といえる歴史を持つモデルではないだろうか。

協力:グレート・ブリティッシュカー・ジャーニー、ミドルブリッジ・エンスージアスト・シミター・セット、ミック・ゴーラン氏

ミドルブリッジ・シミター GTE(1989〜1990年/英国仕様)のスペック

英国価格:2万4663 ポンド(新車時)/2万ポンド(約400万円/現在)以下
生産数:79台
全長:4432mm
全幅:1722mm
全高:1321mm
最高速度:228km/h
0-97km/h加速:7.5秒
燃費:10.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1235kg
パワートレイン:V型6気筒2935cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:150ps/5700rpm
最大トルク:23.7kg-m/3000rpm
トランスミッション:5速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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