「気持ち」で買うクルマ フォルクスワーゲンID.バズ 長期テスト(最終) 今後のEVへ必要な個性と特徴

公開 : 2024.06.29 09:45

過去の栄光を今に蘇らせたVW ID.バズ チャーミングな見た目の電動ワンボックスの実力は? かつてのファンの心も掴める魅力はあるか 英国編集部による長期テスト

積算1万2643km 復調の兆しを見せるワンボックス

従来のステーションワゴンと比較して、SUVは環境負荷が大きいかもしれない。走行性能には妥協があるかもしれない。しかし、支持されるのには理由がある。一般的なユーザーが、クルマへ求めるものを満たしているからだ。

荷室は広く、リアシートにも余裕がある。衝突時の安全性も確保しやすい。しかし、これだけ主流になると個性は薄れがち。新しいSUVへ乗り換えても、ご近所や友人の間で話題になる可能性は高くない。

フォルクスワーゲンID.バズ SWB 77kWh プロ・スタイル(英国仕様)
フォルクスワーゲンID.バズ SWB 77kWh プロ・スタイル(英国仕様)

近年の欧州では下火になっているが、MPVというカテゴリーが流行った時期があった。ルノー・エスパスやフィアット・ムルティプラ、クライスラー・グランドボイジャーといったワンボックスカーが、一般家庭の駐車場に停まっていた時代があった。

機能性や実用性を高めつつ、スタイリッシュさも考えられていた。それでも、子供部屋にポスターとして飾られることはなかったが。

最近、ワンボックスカーは復調の兆しを見せている。高級なレクサスLMは、予想を上回る受注を集めているとか。ボルボのEM90は、公式写真を見る限りカッコいい。アルファ・ロメオも、窓の大きいバンを検討しているという噂がある。

そんな変化の先端にあるのが、フォルクスワーゲンID.バズだ。クルマへ求めるものを満たすうえで、SUVである必要はないことが証明されている。しかも、従来以上に魅力的なワンボックスカーが作れることも示したといえる。

現実的な航続距離は334km 7シーターでも良い

間違いなく四角いフォルムのID.バズだが、走りは乗用車ライク。低速域では驚くほど機敏に身をこなし、安定感が高く、車線の中央を保ちやすい。退屈な通勤が楽しく思えるほど、加速は良い。都市部では気を使うボディサイズだとしても。

これまで、長期テストで6000kmほどを一緒に過ごしてきたが、電費は平均で4.3km/kWh。1度の充電で走れる現実的な距離は、334kmという結果になった。

フォルクスワーゲンID.バズ SWB 77kWh プロ・スタイルと、筆者、フェリックス・ペイジ
フォルクスワーゲンID.バズ SWB 77kWh プロ・スタイルと、筆者、フェリックス・ペイジ

カタログ値は410km。2割も下回った数字だが、高速道路を気にせず走らせた距離が長かった。まずまずの結果だと思う。

このサイズなら、7シーターを叶えられそうに思う。フォルクスワーゲンは、ロングホイールベース版で計画しているが、そちらを先に発売しても良かったのではないだろうか。キャンピングカー仕様も、発表が控えているそうだ。

内燃エンジンで走るフォルクスワーゲン・マルチバンのように、レールの上をスライドし、向きを変えられるアームチェアが載っていたら望ましかった。人間工学的な不満もある。それでも、個性的なステーションワゴン以上の魅力を備えていた。

象徴的なスタイリングへ強く惹かれている自分は、甘めに受け止めていることは否定できない。実のところ、クルマ好きの間で、自慢できるほどの技術的な強みはないだろう。

有料の急速充電器に接続しても、100kWを超えることはなし。気を使って右足を傾けても、無充電で400kmは走れなかった。デジタルなインターフェイスは、ちょっと使いにくかったことも事実だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

長期テスト フォルクスワーゲンID.バズの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

フォルクスワーゲンの人気画像